自分に合った歯医者さんを見つけよう ~歯科治療の成功は、ドクターとのコミュニケーション~

良い歯科医師の概念

私が大阪大学医学部名誉教授であった故中川米蔵先生と出会ったのは20年ほど前に参加した医療行動科学学会主催のセミナーでした。

そのセミナーの中で中川氏は、
良い医師とはどのようなイメージなのかを調査結果をもとに説明されました。

医師が考える良い医者とは、「腕がいい」という回答がトップで、2番目に多かった回答は「患者によく説明する」でした。
これに対し患者に良い医者とはと尋ねたところ、3位が「腕がいい」、2位が「いつでも診てくれる」、そして1位が「患者の話をしっかりと聴いてくれる」ということでした。

この調査結果からは興味深い事実が見えてきます。
医師は良い医者であるために一生懸命説明をして話をしようとする。
これに対し患者は自分の話しを聴いてほしいと思っているわけで、一生懸命説明をすることで良い医者になろうとしても、実際には患者から良い医者とは思ってもらえていないということです。

このことから患者さんにとって安心できる良い歯科医師とは、患者として今抱えている口の中の悩みをしっかりと聴いてくれる医者だということがわかります。

歯科医師に何を話せばいいのか

患者としての悩みを医師に聴いてもらうと言っても、専門家ではないので、病気のこと、治療の事など、知識がなく何を話してよいのかわからない、このような話を伺います。
しかし患者さんが医師に対して悩みを聴いてもらうというのは、専門的なことなどは一切いらないのです。

多くの方は歯を治すために歯科医院に行くと考えています。
しかしこれは間違いで、たとえば歯が無くなった、歯が痛くて耐えられない、見た目が悪くて恥ずかしいなど、口の中のトラブルが原因として引き起こされている生活上の問題を解決するために歯科医院に行っているのです。

ですから患者さんは医師に対して、歯が無くて好きなお肉が食べられない、大事な仕事を控えているのに歯が痛くて集中して働けない、笑うと歯が見えるので恥ずかしくて人前で笑えないなど、ご自身が生活の上で困っていることを伝えればいいのです。

そのうえで重要なことは、自分が治療を受けた結果としてどのような状態になりたいのかを伝えることです。
今痛みが取れればいいのか、それとも二度とこのような痛みを味わいたくないのか、その希望によって医師が治療により支援する内容が変わるからです。

歯科医師としっかり話をするために

医師としっかり話をしたいと考えても、先生が忙しそうでなかなか時間が取れない。
ましてや歯科医院では口を開いて治療を受けているので話ができない、このような悩みを伺います。

歯科医院の仕事をビジネスの目線で評価すると、保険診療の場合では安価に抑えられた治療費のため、多くの患者さんに対処しなければならない、薄利多売大量生産型のビジネスモデルとなっています。
このため治療費用をいただけない相談ではなかなか時間を確保してもらえません。
しかし多くの医師たちは患者さんと話をすることの大切さを理解しています。

そこでじっくりと相談をしたいとお考えになられましたら、予約の取り方を工夫しましょう。

予約の際に「治療のことで相談の時間を取ってほしい」とお願いしてみてください。
そうすれば医師は相談の準備で患者さんと向き合ってくださいます。

歯医者さん選びの6つのステップ

患者さんの悩み

「私の病気は治るのか?」

「治療は長持ちするのか?」

「きちんと治してもらえたのか?」

患者さんの不安は絶えません。そしてこの不安の解決方法は、
「良い先生」を探すこととなるのです。

ではこの「良い先生」はどのようにして見つければいいのでしょうか?

「良い先生」には基準がありません。

ある人は技術の高い先生、ある人は良く相談に乗ってくれる先生、
ある人はいつでも診てくれる先生、美しく治してくれる先生、……。
これらをまとめると、あなたの期待を叶えてくれる先生こそが、
あなたにとっての良い先生となります。

自分に合った先生の探し方

自分に合った先生を探すには、先生と十分に話をする必要があります。
あなたが困っていること、期待することをしっかりと伝えることから始めなくてはなりませ
ん。
そのため、新たな歯医者さんに行く場合には、「相談で伺いたい」という予約を行うことが賢明です。

このような予約をすることで歯医者さんも相談にお越しになるのだという意識が生まれ、あなたの話にしっかりと耳を傾けてくれることでしょう。

歯を失わない歯科医療を受診するための6つのステップ

あなたの期待が、

「生涯自分の歯で過ごしたい」

「治した歯は悪くしたくない」

というものであれば、歯医者さん探しはより慎重に行う必要があります。

そこで以下の6つのステップを歯医者さん選びの手順にされるとよいでしょう。

ステップ❶
歯医者さんに相談に行く前にします。自分の歯をどのような状態にしたいのかという
あなたの期待を明確にするステップです。
きれいになりたいとか、○○が食べたいとか、歯を失いたくないとか、難しいことは
必要ありません。
あなたの気持ちを率直に伝えられるよう整理しましょう。

ステップ❷
相談に伺った先生に、あなたの期待を伝えます。話をすれば、相性や話しやすさが
わかります。
また、あなたの期待に対し納得のいく説明をしてもらえるかも大切です。
合わないと感じたときは、再度考えますと言って別の先生を訪問する勇気を
持ちましょう。

ステップ❸
精密検査を受診します。長持ちする治療は、病気の原因から取り除く原因療法で
進められなくてはなりません。
このためにはあなたの歯を失うに至らしめる4つの病気が発生しているかについて
しっかりと確認することが必要であり、そのために精密な検査を受診することが
必要となります。

ステップ❹
検査結果報告を受け、あなたの歯の様子を理解します。知る権利・学習する権利
という患者の権利により、あなたは歯科医師から検査結果をわかりやすく説明して
もらうことができます。
内容が多岐にわたるので、あとで確認ができるように文書で報告書をもらうのが
良いでしょう。

ステップ❺
治療計画を提示してもらいます。あなたの期待を叶えるための治療方法には
様々なものがあります。
あなたの期待に合った治療方法を選ぶため、様々な方法を提案してもらい
比較検討しましょう。
文書により、治療計画内容・治療スケジュール表・治療費用見積書などを
いただくことができます。

ステップ❻
最後はこの先生のこの治療で良いかを自分自身で決めることになります。
迷った場合には、他の治療計画を提案してもらったり、他の先生の意見(セカンドオピニオン)を聞いてみるのもよいでしょう。

一生使う歯の治療を任せるのであれば、
歯医者さん選びも慎重に取り組むことが大切です。