矯正治療の功罪
人は口を使ってコミュニケーションをとり、他の動物以上に進化を遂げてきました。
そして人は豊かな感性を持ち、情緒的な生活をおくることができるようになったのです。ですから口は、食物を摂取する為だけの臓器ではなく、素敵な笑顔、滑舌よくしゃべり会話を楽しむ事、若々しく美しくあることを満たさなくてはなりません。
つまり豊かな生活を営むために整った歯並びであることが必要であり、そのための治療方法として矯正治療は普及してきました。
しかし旧来の矯正治療では、2つの大きな問題を発生させています。
一つには、歯の並びは整えても咬み合せを正しく整えることについての配慮ができていなかったことです。
この結果、顎関節症、うまく噛めない、肩こりなど筋肉の過剰な緊張を招く、歯がすり減るなどして壊れる、歯の位置が動いて乱れるなどの問題を発生させました。
二つには、歯を間引いて行う矯正により歯で構成される歯並びのアーチが小さくなり、舌の納まるスペースが小さくなってしまって、舌が後方へと押しやられ咽頭部分を狭くしてしましたことです。
この結果、睡眠時無呼吸症を発症させました。
また上咽頭部の通気量が拡大しないため病巣感染源となったり、口呼吸を引き起こしました。
これらの問題は、命や生活を脅かす厄介な問題となっています。
口の機能を育む矯正治療
本来生えてくる永久歯は、あごの骨の中に正しく整列し、上下で咬み合います。
歯を間引かなくても適切な大きさへと顎が成長し、口の周りの筋肉の機能を正常に発達させさえすれば、整った正常な咬み合せが完成するのです。
ですから矯正治療では、適切な機能と形態を持った状態へ口の成長を支援することから始めなくてはならないのです。
具体的には、顎の成長と筋肉の正しい活動を促し、その後永久歯が揃えば正しい咬み合せ関係を作り上げるという手順であり、この手順を実践すれば矯正治療の負担
も軽減されます。
このための矯正治療は、旧来のワイヤーを用いた手法だけでなく、顎骨の緩徐拡大法、筋機能訓練法、マウスピース法、そしてマイクロインプラントによる方法などを組み合わせて実施されるのです。
いつ、どのようにして始めるか?
矯正治療をできるだけ行わず、行う場合でも最小限にとどめるには母乳育児からはじめます。
その後は離乳期の食事内容や生活習慣への配慮を行いながら、お口の適切な成長発達を促し、6歳までには主治医となる歯科医師を見つけ、歯科医院へ行くことを習慣化し、適正な成長を支援してもらうようにしましょう。
6歳臼歯が生えだすと顎の大きさがおおよそ予測できますから、顎骨の大きさが少ないと判断されればこの時期に顎の大きさを拡大する処置や筋機能訓練法を用いたアプローチで、成長を促すのが賢明です。
この後は20歳前までで適正な咬み合せが完成していくのを見守り、歯並びが整わない場合は積極的な介入で歯の並びを整えます。
大人の歯並びが完成したのちに咬み合せが不完全であれば、マウスピースを用いた矯正処置で最終的に咬み合せ関係を整えることになります。
「成長を待ちましょう」と言って根拠なく治療介入を遅らせたり、歯を抜く方法を推奨する矯正治療は、大きなリスクを伴う治療選択です。
できるだけ正しい知識を持って矯正治療に取り組むことを推奨します。