口呼吸を治そう ~顎の育成と呼吸~

正しい呼吸と健康

人間が健康に生活するためには、

①正しく栄養を摂取する
②酸素を取り込む
③感染を防ぐ

という3つの要素が重要です。

そこで今回は酸素を身体に取り込むための呼吸についてお話ししましょう。

酸素を取り込むための呼吸では肺に空気を吸い込んで行います。
この空気は鼻から取り込まれ喉(咽頭)から気管を通って肺にたどり着きます。
この咽頭部が塞がると必要な空気が肺へと運ばれず睡眠時無呼吸症という病気を発症してしまいます。
睡眠時無呼吸症では、心筋梗塞や脳卒中といった病気の発症率が健常者の2~5倍になるとも言われており、無呼吸症を引き起こさないことが健康であるために必要な要件となります。

睡眠時無呼吸症は咽頭部が塞がれることにより発症しますが、これには肥満あるいは小さな顎という2つの問題が関係しています。

このうち小さな顎になることは口の成長と密接に関係しており、その口の成長を妨げるのが口呼吸なのです。

歯並びと呼吸の関係

人は鼻だけではなく口からも空気を取り込むことができます。
日常の生活では鼻を使って生活し、運動時など多量の酸素を必要とするときのみ口を使うのが正しい使い方です。

鼻で呼吸をする場合、閉じられた口の中では舌が上顎(口蓋)に密着しています。
このことが上顎の左右及び前方向への成長を促します。
さらに上顎がしっかりと成長すると口蓋は下方に下がり、このことにより口蓋の上にある鼻腔は大きくなり、鼻呼吸がしやすくなります。

しかしながら日常の呼吸も口で行うようになると口の中に常時空気の通り道を確保しなくてはならず、舌が上顎に接触しません。
このため顎は小さくなってしまい鼻呼吸もしにくくなってしまいます。

適正な大きさに成長できなかった顎では歯並びが悪くなり、舌が鎮座する口自体の容積も小さくなります。
舌は筋肉の塊で、外から見えている部分だけでなく後方にも一定の大きさがあるため、前方部分の口の中の容積が小さくなると居場所がなくなり、舌全体が後方に押しやられてしまいます。
このことにより咽頭部が狭くなり、無呼吸症を発生させてしまうのです。

歯を抜かない矯正と顎を育てる支援

歯並びが悪い方は基本的に顎の大きさが小さく、この小さな顎の中に歯を並べるために歯を抜いて歯並びを整えるという矯正方法が主流でした。

しかしながら顎を小さくまとめてしまうと無呼吸症のリスクが高まってしまうため、歯を抜かない矯正治療を選択しなければなりません。
このために最も良い方法は、成長期に適正な顎の大きさになるよう支援をすることです。
成長期にあごが小さくなる傾向の子どもはおおむね口呼吸です。
また舌や口の周りの筋肉の使い方を間違って学習している場合もあります。

これらを改善し正しい成長の過程を支援することで、歯並びが良くなるとともに、健康に生活できる呼吸器官の機能を手に入れることができるのです。

豊かな生活は口の健康から ~歯を守ることは病気を防ぐこと~

糖尿病と口の病気

糖尿病に罹患している方では歯周病が重篤化する傾向から、歯周病が糖尿病の影響で悪化するものと考えられた時代がありました。
しかし糖尿病の病態が明らかになるにつれ、歯周病が糖尿病と深く関わっているだけでなく、歯周病が糖尿病を引き起こすことがわかってきました。
つまり歯周病と糖尿病には双方向性の関係があるのです。

歯周病に罹患した炎症歯肉内では大量のTNF-αを含む炎症性サイトカインが産生されており、これが血行を介してインスリンの作用を妨げます。
他方肥満傾向にあるⅡ型糖尿病患者では脂肪細胞から種々のアディポカインが作り出されており、その中には炎症性サイトカインが含まれこれがインスリンの作用を妨げており、この糖尿病発症進展のメカニズムが歯周病と一致するというわけです。

つまり糖尿病を発症進展させるメカニズムが歯周病で発生している状況と一致しているのです。
ですから歯周病の管理は糖尿病を防ぐことになるのです。

脳梗塞、心筋梗塞、動脈硬化と
口の病気

動脈硬化が進んだ血管内部では、アテロームと呼ばれる瘤が発生し、血管を詰まらせて脳梗塞や心筋梗塞を発症させています。
このアテロームを精査すると、その内部には血液中に侵入した歯周病関連物質の存在が確認されました。
歯周病の発症部分では、24時間365日続けて外部からの侵入者に対する免疫応答が繰り広げられ、ここから歯周病原性菌が侵入します。

また、その場で産生された細菌の内毒素や炎症性サイトカインらが一緒に血流を介してアテロームへと運ばれるのです。
これがアテローム内部に歯周病関連物質が存在する仕組みなのです。

ですから歯周病の排除は血管の病気による命の危険から、身体を守ることに繋がるのです。

睡眠時無呼吸症と口の関係

口の周囲(舌・口唇・頬)の使い方の間違いを原因として顎の成長が少なくなると舌が後方に押しやられ睡眠時に気道を塞いでしまいます。
これが睡眠時無呼吸症です。
この病気が発症すると脳・心血管疾患や昼間の事故の発生確率が数倍にも跳ね上がり、死亡リスクが健常者に対して極めて高くなります。

元来口は消化器ですが咽頭部分を呼吸器と供用しているため、臓器としての口の形態と機能が正しくなければ、呼吸動作にも影響してしまうのです。
致命的な失敗は不正な歯並びや機能を放置することや矯正治療で不用意に歯を間引くことです。

歯科的な健康の確認とその回復方法の選択が命を脅かす問題になってしまうのです。

予防医療から見た口の健康の重要性

歯科医療は医科とは異なり、命とは関係ないという認識は誤りです。
すでに予防医療に取り組む医療者の中では、歯科的な健康が確保されなければ、健康な身体を維持できないというのは常識であり、口腔内の疾患がガン・血管疾患を代表とする慢性疾患の原因の一つであると認識されています。

口の中に生じる炎症性の病気の排除、呼吸器機能を阻害しない適正な口腔の成長発達の支援と機能回復は健康な体作りの基本であり、入り口です。

自分に合った適切なホームドクターを確保され、健康で豊かな人生を手に入れてください。

それでもあなたは歯を抜きますか? ~予防医療から見た歯並びと進化した矯正治療~

矯正治療の功罪

人は口を使ってコミュニケーションをとり、他の動物以上に進化を遂げてきました。
そして人は豊かな感性を持ち、情緒的な生活をおくることができるようになったのです。ですから口は、食物を摂取する為だけの臓器ではなく、素敵な笑顔、滑舌よくしゃべり会話を楽しむ事、若々しく美しくあることを満たさなくてはなりません。
つまり豊かな生活を営むために整った歯並びであることが必要であり、そのための治療方法として矯正治療は普及してきました。

しかし旧来の矯正治療では、2つの大きな問題を発生させています。
一つには、歯の並びは整えても咬み合せを正しく整えることについての配慮ができていなかったことです。
この結果、顎関節症、うまく噛めない、肩こりなど筋肉の過剰な緊張を招く、歯がすり減るなどして壊れる、歯の位置が動いて乱れるなどの問題を発生させました。
二つには、歯を間引いて行う矯正により歯で構成される歯並びのアーチが小さくなり、舌の納まるスペースが小さくなってしまって、舌が後方へと押しやられ咽頭部分を狭くしてしましたことです。
この結果、睡眠時無呼吸症を発症させました。
また上咽頭部の通気量が拡大しないため病巣感染源となったり、口呼吸を引き起こしました。
これらの問題は、命や生活を脅かす厄介な問題となっています。

口の機能を育む矯正治療

本来生えてくる永久歯は、あごの骨の中に正しく整列し、上下で咬み合います。
歯を間引かなくても適切な大きさへと顎が成長し、口の周りの筋肉の機能を正常に発達させさえすれば、整った正常な咬み合せが完成するのです。
ですから矯正治療では、適切な機能と形態を持った状態へ口の成長を支援することから始めなくてはならないのです。
具体的には、顎の成長と筋肉の正しい活動を促し、その後永久歯が揃えば正しい咬み合せ関係を作り上げるという手順であり、この手順を実践すれば矯正治療の負担
も軽減されます。
このための矯正治療は、旧来のワイヤーを用いた手法だけでなく、顎骨の緩徐拡大法、筋機能訓練法、マウスピース法、そしてマイクロインプラントによる方法などを組み合わせて実施されるのです。

いつ、どのようにして始めるか?

矯正治療をできるだけ行わず、行う場合でも最小限にとどめるには母乳育児からはじめます。
その後は離乳期の食事内容や生活習慣への配慮を行いながら、お口の適切な成長発達を促し、6歳までには主治医となる歯科医師を見つけ、歯科医院へ行くことを習慣化し、適正な成長を支援してもらうようにしましょう。

6歳臼歯が生えだすと顎の大きさがおおよそ予測できますから、顎骨の大きさが少ないと判断されればこの時期に顎の大きさを拡大する処置や筋機能訓練法を用いたアプローチで、成長を促すのが賢明です。
この後は20歳前までで適正な咬み合せが完成していくのを見守り、歯並びが整わない場合は積極的な介入で歯の並びを整えます。
大人の歯並びが完成したのちに咬み合せが不完全であれば、マウスピースを用いた矯正処置で最終的に咬み合せ関係を整えることになります。
「成長を待ちましょう」と言って根拠なく治療介入を遅らせたり、歯を抜く方法を推奨する矯正治療は、大きなリスクを伴う治療選択です。
できるだけ正しい知識を持って矯正治療に取り組むことを推奨します。

 

体の不調は、口の中の病気から ~2足歩行が引き起こした睡眠時無呼吸症~

ヒトという動物

哺乳類に分類されるヒトという動物は、2足歩行をすることが大きな特徴です。
そしてこの2足歩行をすることによりほかの哺乳類と大きく異なる体の構造を持つこととなります。
それは口と食道の間の部分「咽頭」の中央部分、中咽頭に現れています。
ここは空気の通り道と食べ物の通り道とを共有している部分ですが、2足歩行をするようになったことで顎の大きさが小さくなり、そのため筋肉の塊としてこの顎の中に納まっている舌が、後方の中咽頭を狭くしているという構造です。
そしてこの中咽頭のスペースを狭くする舌の存在が、睡眠時無呼吸症という病気を引き起こすのです。

睡眠時無呼吸のおこり方

ヒトという動物ではほかの哺乳類と異なり言語を持っていますが、この言語を発達させたのが複雑に動ける舌の存在です。
この舌は常時小さく固まった状態で顎の骨の中に納まっていますが、現代人では顎の大きさが小さくなる方向に進化したことや、肥満などにより中咽頭自体が圧迫されて狭くなったような場合において、この中咽頭を舌が塞いでしまうのです。
特に仰向けでの睡眠時には、重力によっても舌は後方に押しやられてしまいますから、この状態が強く発生することになるのです。

睡眠時無呼吸がもたらすリスク

睡眠時無呼吸症を発症するようになると、さまざまな命を脅かす問題のリスクが高まります。
睡眠時無呼吸症を発症すると、意に反して昼間に突然居眠りをしてしまうということが起こります。
そのため車などの運転中にこの状態になることで、交通事故を起こしてしまうのです。その発生確率は、健康な人の2~7倍になると言われています。
また、生活習慣病である、高血圧・高脂血症・糖尿病・脳卒中の重症患者の場合では、数年後の死亡率が40%を超えるというデータが得られました。

睡眠時無呼吸を予防するために

あごが小さく成長してしまうことでこの病気が起こることを回避するためには、体の成長期にある子供たちの顎の大きさが、正常な歯並びができる程度にまで拡大させることが効果的です。
また歯列矯正では、歯を間引くことがよくありますが、この方法も危険な治療法と考えられるため慎重に検討されるべきでしょう。
もし顎の成長が終わった後にこのような症状が発生した場合には、顎を大きくはできませんから、睡眠時にのみ下顎の位置を前方に固定するマウスピースの活用も予防には効果的です。
肥満を抑え、適切なバランスのとれた体形を維持するように努めることも、この病気の回避につながります。

良く眠れない、生あくびがよく出る、いびきをかくなどの症状がある方は、睡眠時無呼吸症になっているサインと受け止め、この病気がもたらすリスクを避けるため、早めに歯科医師と相談されることが賢明です。

「今、子供が危ない! ~小さな顎がもたらす、人生のリスク

小さくなった子供の口

「歯は1000年で1%小さくなり、顎は1世代で30%小さくなる」

これは国立博物館主任研究官であった馬場さんの言葉です。
この言葉が意味することは、歯の大きさはおおよそ遺伝的な要素で決まり簡単には変わることがないが、顎の大きさは成長過程の環境の要素で決まりしっかりと使わなければ成長しない、ということを示唆しています。

現代社会では生活環境の急激な変化に伴い顎を使わない生活スタイルが定着しています。
母乳哺育から人工乳哺育へと変化し、また食品加工技術の進化と食品関連企
業の発展は柔らかくて食べやすい加工食品を氾濫させました。

たとえばハンバーガーで昼食を食べる場合と昔ながらのごはんの日本食で昼食を食べる場合を比べてみましょう。

神奈川歯科大学の調査では、同じカロリー数を摂取するためにかまなければならない回数が、ハンバーガー562回に対しごはん食では1019回でした。
つまり噛むという機能を使わない使えない状況となっていることがわかります。
ですから現在の子どもたちでは、歯がきれいに並ぶだけの顎の大きさへと成長する環境自体が無くなっているのです。

実際に幼稚園で歯科検診を行うと、乳歯が隙間なくキレイに生えそろっている子供を多くなっています。
本来乳歯のあとに生えてくる永久歯の方が大きいため、乳歯の時には歯と歯の間に隙間なければなりませんが、この正しい顎の大きさが確保されていないのです。
顎の大きさが小さいと鼻(鼻腔)の容量が小さくなり呼吸をしにくくし、呼吸を補うために口呼吸となります。
また、顎が小さいことで舌が後方に押しやられ気道を圧迫し、睡眠時無呼吸症を起こしやすくします。

この2つの問題が健康で豊かな生活を過ごすための大きな障害となるのです。

新しい矯正治療の概念

矯正という歯科治療は、成長しなかった顎の骨の中に適切に歯が並ぶよう歯を間引いて行う治療方法です。

このため完成した歯並びは小さく、口や鼻の容積を小さくしてしまいます。
この結果、口呼吸や睡眠時無呼吸症が発生しやすい環境を作りだしてしまうのです。
いち早くこのような影響に着目した矯正治療先進国のアメリカでは、歯を間引く従来の矯正治療から、顎の骨自体を大きくして歯を間引くことなく歯並びが整うように支援する矯正治療が採用されるようになってきていました。

上顎に装着する特殊な装置(スケルトンタイプの拡大装置)により、上顎奥歯の位置を左右に広げることによって、口蓋正中縫合という骨の接ぎ目を広げて上顎の大きさを拡大するのです。

このことにより歯を間引く必要が無くなり、きれいな歯並びが確保しやすくなるとともに、口の容積を大きくするのです。
このことは舌の位置を安定化させ、舌の後方圧迫による気道の閉鎖を回避します。
また同時に鼻腔の容積も増やし、鼻からの呼吸を楽にすることにより、口呼吸を回避します。
鼻がよくつまる、口をぽかんと開けている、いびきをかく、食事の時にぺちゃぺちゃ音がする、乳歯の歯並びがきれいで隙間が無い、このような状態を確認されましたら是非とも一度相談されることをお勧めします。

口を健康な状態へと成長発育させることは、子供の将来の生活の質を高めることにつながるのです。