血管を守って、老化を防ごう! ~血管病と歯周病~

歯周病は慢性炎症

歯周病が歯ぐきの病気だということはどなたでもご存じの事柄です。

しかし、歯周病が炎症を主体とする病気であるという認識は少ないのが現状です。

歯周病は歯ぐきの溝の中の歯と接する歯ぐきの部分の炎症による病気です。
歯ぐきの溝の深さが4mm程度の方であれば、その炎症を起こしている歯ぐきの総面積は手のひらぐらいの大きさ約75㎠ほどもあり、その部分が腫れているだけでなく出血や膿を出し、さらには細菌が継続的に感染する温床となる病気です。
もし身体のどこかに手のひらほどの大きさでこのような状況を起こしているところがあるとすると、放置する人はいないでしょう。
しかし歯周病はそのような炎症を起こしているにも関わらず、放置されている場所であり、慢性炎症として体に影響を与え続ける病巣なのです。

慢性炎症が病気を引き起こす

慢性的な炎症が病気を発症させることはよく知られています。
肝炎ウイルスで発症した肝炎は肝硬変から肝がんへと移行しますし、ピロリ菌で発症した胃炎は胃がんになり、HPV感染は子宮頸がんを発症させるなど、慢性の炎症は身体を蝕みます。
同様に歯周病により細菌が血管内へと侵入することにより、動脈硬化を引き起こしひいては脳・心筋梗塞を引き起こします。
また炎症により作り出された炎症性サイトカインが体内に持続的に供給されると糖尿病を発症させます。

炎症は血管を傷め、老いを早める

医学博士のウイリアム・オスラー氏は「人は血管とともに老いる」という言葉を残しておられますが、加齢は動脈硬化の主たる危険因子の一つです。
つまり加齢により血管が本来持っている様々な機能が次第に低下するわけで、特に血管の弾性が低下することが問題となります。
加齢による変化は歯ぐきの血管でも同様に発生し、この結果歯周病に対する抵抗力は低下します。
すると炎症はさらに重篤化・慢性化していくこととなり、歯周病菌やその細菌が作り出す毒素、炎症性物質が血管内に入り込むこととなるのです。
血管内に侵入した細菌は、血管内壁にできたアテローム内に侵入し増殖して血管をふさいだり、それが剥がれて血栓となり血管を詰まらせることで梗塞を引き起こすのです。

歯周病が関係する全身の病気

歯周病に関係するといわれる病気は血管病だけではありません。
糖尿病、メタボリックシンドローム、骨粗しょう症、誤嚥性肺炎などの呼吸器系疾患、早産や低体重児出産の発症など様々です。
つまり、身体の一部に継続的な炎症箇所があること自体が問題であり、この歯ぐきという箇所が身体に対しての感染の入り口になっているということを理解しなければなりません。
そしてこの炎症を取り除くという意識が重要となります。

歯周病の治し方

歯周病への取り組みは至ってシンプルであり、歯周病の原因となる細菌の量を問題がないレベルまで減らすことに尽きるといえます。
しかし複雑な形をしている口の中の細菌を取り除くことは困難な作業でもあります。
きれいに整った歯並びで病気が発症していない状況から細菌除去を始めるとその作業は簡単ですが、歯列が乱れていたり、不正な形や不適合な状態の修復物が入っていると掃除ができません。
また、いったん歯周病が発症し深い歯周ポケットができてしまうとその部分を自力で清掃することもできません。
なんら症状を感じていなかったとしても、できるだけ早期に精密な検査を受け、歯周病の状況を正しく見極めておきましょう。

もし歯周病が見つかったならば、まずは細菌の少ない口の中の状況を作りあげ、この状況を維持するメンテナンスの体制を整えることが賢明です。

あなたの歯を壊す咬合病 ~自己診断で咬合病から歯を守ろう~

咬合病とは

咬合病とは咬み合わせの不具合により起こる様々な病的状態の事で、食事のとき以外に強く噛みしめたり歯ぎしりなどをして歯に過剰な負担をかけ歯を壊してしまう病気の総称です。

口の中の状態からとらえたこの病気は、適切な咬み合わせが確保されていない場合に発症する病気であり、これらの問題を改善することで解決が可能です。
しかしながら自律神経の問題など全身の状態が悪いことによっても発症するため対処が複雑になっています。
口の中に発症する虫歯や歯周病は細菌が原因であり、適切な管理を行えばこの病気を防ぎ、歯を守ることができますが、咬合病は自己管理では改善できない問題です。

このため早期に発見し専門医に委ねなくてはなりません。
そこで今回はあなたがこの咬合病の問題に侵されていないかの見分け方をお知らせします。

歯の磨り減り、痛み、歯が割れる

咬合病では上下の歯を強く接触させることにより歯を磨り減らします。

このため歯の表面のエナメル質が薄くなりやがては失われ、エナメル質よりもやわらかい象牙質が露出してしまうことで、歯の磨り減りだけでなく、知覚過敏や咬み合わせたときの痛みを引き起こします。

磨り減りによりエナメル質が薄くなり歯が割れやすくなるのも病状が進行した症状です。

奥歯の磨り減りや前歯が水平に切ったような磨り減り状態になること、また歯の先端部が欠けてギザギザになること、歯と歯ぐきの境目が欠けてしまうことなどがあれば咬合病を疑います。

歯周病が治らない

歯に加わる強い力は絶えず歯を揺らすように作用します。

歯周病では炎症により歯を支える骨が失われますが、歯周病単独の問題であれば適切な処置と細菌を取り除くことで炎症が治まれば歯の揺れは止まります。
しかし歯周病の処置を適切に行ったにもかかわらず歯の揺れが止まらず、歯周病が進行するときは、咬合病が併発していることを疑います。

顎がカクカク鳴る、口が開かない

顎関節で音がしたり、口が開きにくくなる病気を顎関節症と言います。

顎関節症では顎関節内にある関節円板の位置がずれていたり、関節自体に障がいが発生したりしていますが、これは適正な位置で上下の歯が正しく接触していないことによります。
つまり、顎関節症は咬合病の結果として発症するのです。

肩こりや頭痛

咬合病で食いしばりや歯ぎしりを行うと口に関係する筋肉が異常に緊張し痛みを発するようになります。
多くの場合の頭痛は頭がい骨表面の筋肉の痛みで、過緊張により筋肉に疲れが溜まった状態です。
肩こりも同様で適切な位置で咬みあわないと顎の位置が不安定となり、頭を支える肩から首にかけての筋肉に疲労が溜まり、肩こりとなります。

肩こりや頭痛に悩む人は咬合病のチェックを受けましょう。

情緒が不安定

咬み合わせは非常に繊細で、30ミクロン(1ミリの1000分の30)の違いを識別します。

咬み合わせの誤差は咬合病の原因ですが普段は歯には影響が出ないようこの誤差を
顎をずらすことによりカバーし、歯が壊れないように守っています。
しかしストレスや疲れなどの影響でこの防御機能が働かなくなると違和感が増幅することを受けてメンタルの状態も悪くなり情緒不安定になります。
身体は様々なサインで異常を知らせています。

もし心当たりがあるようなら、咬合病が無いか専門医に確認してもらいましょう。

口から始まる全身の病気 ~歯科治療が配慮すべき身体の健康とは~

口の病気と身体の健康

人の体に発生する病気はおおむね2つの種類に分類されます。
1つは「感染」で、本来人の体の中には無かったものが入り込むことにより起こる病気です。
たとえばインフルエンザは本来体の中には居ないウイルスが入り込むことにより発症します。
2つは「機能不全」で、身体を健康に維持する体内での仕組みが壊れることにより起こる病気です。
たとえば体を維持するために必要なエネルギーは、口から取り込まれる食品から栄養素として取り込まれますが、この栄養素が不足すると体が正常に機能せず病気が起こります。
ビタミンやミネラルが不足するとタンパク質・糖・脂肪の分解が行えず、細胞に必要なエネルギーを創ることができません。
いわゆる栄養失調となるのです。
今回はこの2つの病気のうち、感染が口の様子と深くかかわっていることをお話しします。
体の中に細菌が侵入する場合、その細菌の侵入経路が問題となりますが、
3大感染経路は

 ①上咽頭 ②根尖病変 ③歯周病

であり、これらはすべて口に関係しています。
ですから適切な口の健康管理が身体を病気にしないためにとても重要なの
です。

病巣感染がもたらす脳と心臓の病気

口の中に住み着く細菌の毒性は低く、すぐに重篤な病気を発症することはありません。
その反面、歯の根の先に膿がたまる根尖病変や歯の周囲で起こる歯周病では、
24時間365日途切れることなく感染が継続し、炎症反応が起こっています。
この炎症部分から体内へと入り込む細菌は、血液の流れに乗って体内のいたる所へと移動するのです。
このとき血管の内面にできた瘤(アテローム)の中に細菌が入り込むと、そこで細菌が繁殖しこの瘤を大きく成長させます。
その結果血管が詰まってしまい、脳梗塞や心筋梗塞を引き起こすのです。
このように、実際の感染場所とは異なる場所で別の病気が発症する状態を病巣感染と呼びますが、口の中の病気はこの病巣感染の感染源として特に注意をしなくてはならない場所なのです。

歯周病と糖尿病

また歯周病では歯の周囲の歯周ポケットで炎症が発生しており、この歯周病による炎症が糖尿病との双方向性の関係を引き起こしていることがわかっています。
歯周病による炎症箇所の大きさは、歯周ポケットが平均4㎜程度の方で歯が生えそろっている方では約75㎠(おおよそ手のひら程度)ほどあります。
この大きさの範囲で常に細菌感染とそれに対抗する身体の防御反応、つまり炎症が発生しているわけです。
炎症が起こるとそこではいくつもの種類のサイトカインが発生し、この炎症性サイトカインが血糖値調整に関わるインスリンの作用を妨げるのです。
つまり、歯周病の影響によって血糖値を下げる機能が低下するということであり、血液中の血糖値が下がらない糖尿病を重症化させるのです。

歯科治療における全身の病気への配慮

入歯などを作るような歯科治療を行う際に配慮されなければならないにも関わらず見過ごされてきた事柄が2つあります。
それは、「なぜ歯を失ったのか」という原因の確認と「残っている歯の健康状態は万全か」という原因排除の問題です。

歯の治療といえども身体の一部を改善する治療ですから、全身の健康状態に配慮するのは超然であり、また治療した状態が長く健康に維持するためには残された歯に歯を失うような病気が起こらないことが重要です。
何度も治療を繰り返し歯が悪くなり続けることは良いことではありません。
再治療が無く、健康な口が維持されることは、健康な身体を守ることだと言えます。

ですからこれからの歯科医療では、このような配慮を行うことが深く求められることとなるでしょう。

体をむしばむ、歯周病 ~健康な体は口の健康管理から~

病気が起こるということ

身体の調子が悪くなる、いろんな病気にかかる、これは本来のあるべき体の状態が保たれていないことが原因です。
この本来あるべき体の状態から外れてしまうには大きく2つの状況が関係します。
一つには本来体の中には存在しない物が体に侵入するいわゆる「感染」です。
そしてもう一つは、健康な体を維持する仕組みが壊れる、「栄養失調」です。

感染は、体の中に細菌やウイルスが侵入することから引き起こされますが、その入り口となるのが感染源であり、慢性的に人が持っているこの感染源には3つの個所があります。
それは、上咽頭(鼻とのどの移行部分)、根尖病巣(歯の根の先端部の炎症部分)、そして歯周病です。
これらの場所では慢性的に炎症が発生しており、24時間休むことなく体がそこにいる細菌や細菌が作り出す毒素などと闘っています。
その一部は血管を通じて体内に入り込み病気を引き起こします。

栄養失調は、カロリー不足ではなく必要な栄養素の不足の状態を意味します。
腸内からの栄養吸収が悪くなったり、また体内のビタミンやミネラルの不足が原因です。
現代人では、食生活に偏りがあることや、食品自体(特に野菜)が含む栄養素の量が激減しているため、食べているようでも栄養素が不足する状況が発生しています。
このことにより分子レベルでの体の機能不全が発生し、その状態が長期化することで病気へと移行してしまうのです。

歯周病がもたらす全身の病気

近年病気の実態が詳しく解明されるようになり、歯周病が感染源として様々な全身の病気に関わっていることがわかってきています。
歯周病が発生している歯ぐきの溝の中では、細菌が作り出す毒素や細菌自体の組織内への侵入に対抗して、免疫システム働き体を守ろうとします。
この免疫システムでは、炎症が起こっているところで炎症性サイトカインが作られます。
たとえばこの炎症性サイトカインが血液により運び出されると、血糖値を下げる働きをするインスリンの作用を妨げるため、血糖値のコントロールがうまくできなくなり糖尿病が悪化するのです。

また、歯周病により侵入した細菌や歯周病関連物質が血流で運ばれ、動脈内のアテローム(粉瘤)内に侵入ることにより、そこが免疫応答の舞台となります。
これによりアテローム状態を増悪化させ、動脈硬化を重症化させるとともに、虚血性心疾患を起こすなどの症状へと進行させてしまいます。
この結果、いわゆるメタボリックドミノが起こってしまうのです。

歯周病の診断と対処

「リンゴをかじると血が出ませんか」と言うフレーズの宣伝は50年ほど前のものですが、歯周病は生活習慣病で大変ゆっくりと進む慢性疾患であるため、ほとんどの方が重症化するまで気づきません。
もっとも簡便な病気の検査方法は歯科医院で歯周ポケットの深さと出血状態を確認することです。
それに伴いレントゲン写真を撮影することも有効です。
歯周病が進行すると歯を支える骨が壊れますから、その様子を確認すれば病状がわかります。
もし問題があれば、お口の衛生状態を改善し、歯周ポケット内部の細菌を取り除くことで中程度までの歯周病は改善できます。
万一進行していた場合でも、外科処置を併用すれば改善が可能な場合もあります。
まずは自分の状態の確認が第一、しっかりとした検査を歯科医院で受診されることがあなたの体を守ることに繋がります。

 

体の不調は、口の中の病気から ~歯周病と心臓血管疾患~

炎症は手のひらサイズ

鼻・目・耳、体のどの部分を少々強く触ったとしても、血が出ることはありません。
しかし歯磨きのブラシの毛先が歯ぐきに触れるだけで血が出ることがあります。
このことは体の健康という観点からみると大変異常なことだと言えます。

歯周病は口の中の細菌が原因で歯ぐきに炎症を起こす病気です。
歯と歯ぐきの隙間の溝の中で細菌が繁殖し、さらにこの溝を深くして歯周ポケットを作り上げながら病気が進行します。
歯周ポケットの深さが5~6mmという中程度の歯周病の場合では、その炎症を起こしている歯周ポケットの総面積が約72㎠となります。
これは大人の手のひらの面積とほぼ同様の大きさなのです。
もし体のどこかに手のひらサイズの腫れがあり、出血していると放置することはありません。
しかし口の中ではこのような状態が常時発生し放置されているのです。

この炎症が発生している個所からは、口の中に住み着いている多くの細菌や細菌が作り出した有害物質が体の中に侵入し、さらに血管の中へと入り込み、全身へと広がっていくのです。
歯周病が厄介なのはこの病気が慢性疾患であるために、このような状況が持続的に影響していることです。
この結果様々な病気を引き起こしますが、現在わかっているだけで動脈硬化などの血管系の病気をはじめ、心臓病、肺炎、糖尿病や妊婦さんにおける早期低体重児出産などがあります。

歯周病と心臓血管疾患

疫学的研究から、歯周病は心臓血管疾患のリスク因子の一つとして注目されています。
これまでの研究結果によると、歯周病にかかっている人はそうでない人に比べ、1.5~2.8倍も心臓血管疾患を発症しやすいことや、心臓血管疾患の原因となるアテローム性動脈硬化症の程度が歯周病と関係していることなどが報告されています。
歯周病が心臓血管疾患に影響を与えるのは、歯周病により歯肉で炎症が起こることによります。
炎症が起こっている歯ぐきではサイトカインと呼ばれる炎症性物質が作られ、この物質や歯周病菌が血液により心臓まで運ばれるのです。
そこで血管内皮細胞や脂肪性沈着物中のマクロファージを活性化させ、その結果として心臓の血管の栓塞を引き起こすのであると考えられています。
この見解は脂肪性沈着睦の中から歯周病菌のDNAが見つかったことから発見されました。
また細菌性心内膜炎を起こした心臓の弁からは歯周病菌が確認されています。
これは同じく血流により運ばれた歯周病の細菌が、血液の滞留しやすい弁の周囲で定着してしまい、さらにそこで増殖することによって起こることが確認されています。
さらに細菌が増えて大きくなった塊が、血流にのってほかの場所へと移動し、脳の細い血管で詰まってしまうことがあります。
この場合には、脳梗塞を起こしてしまうわけで、やはりまた命に関わる病気につながるのです。

病巣感染という概念の重要性

口の中の病気については、「最悪歯が無くなる程度の事であって命に関わることはない」と言うのが一般的な概念でした。
ですから口の中の病気を深刻に考える患者さんは少なく、また歯科医師でさえ壊れた歯の修理だけを考えていました。
しかしほかの場所で発生する病気の原因が詳しく解明される中で、口の中の病気が病巣となっている病気が数多く見つかっています。
本来体の中には存在しない細菌が体の中に入ることで発生する病気は、その感染経路を確実に取り除くことが重要であり、その一つが歯周病を取り除くことなのです。

歯周病は治せる病気です。歯医者さんと相談して、しっかりと取り組みましょう。

体の不調は、口の中の病気から ~病巣感染から体を守る~

口から入る細菌

感染症と呼ばれる病気は、本来体の中にはいるはずのない、さまざまな細菌が体の中に入り込むことにより起こります。

ではこの細菌はいったいどこから体に入るのでしょうか?

細菌が体の中に入るルートは、注射や怪我など本来は外部と接触しないところから入るケースを除けば、空気の通り道となる呼吸器、さまざまなものに触れる皮膚、そして口から始まり肛門まで人が栄養を摂取するための消化器が主なところです。
この中では、消化器が最も細菌と接触している場所であり、その中でも口の中が最も細菌の種類が多い場所なのです。
しかし口の中には多くの細菌が住み着いている反面、細菌が体内には入らないような防御の仕組みも備わっているため、基本的には細菌が数多く住み着いていても問題はありません。
しかしながら口の中に病気が発生すると事情は変わります。体の中に細菌が入り込む防御システムが働かず、病気の個所から直接体内に様々な細菌が入り込むのです。

多くの方は口の中に病気が起こっていることを知らずに放置している状況があることと、口は最も多くの種類の細菌が住みついている状態であることを考え合わせると、人に病気を発症させる多くの細菌は口から感染していると言えます。

口の中の病巣

口の中に病気があるとき、口の中の細菌が体内に入り込めるルートができるわけですが、その感染源となる場所を病巣と呼びます。口の中に発生する病巣には次にあげるようなものがあります。

①むし歯  
    むし歯が進行すると歯の中の歯髄【神経と血管がある所】とつながり
    そこから細菌が入る 
   
 ②歯周病 
    歯と歯ぐきの隙間の溝に発生するため、細菌の住処となり、炎症のある歯ぐき
    から細菌が入る  

 ③根尖病変  
    歯の根の先端にできる膿の袋、虫歯の進行を放置したり、不完全な歯の根の治         
    療によりでき、そこから細菌が入る

これらの病巣は完全に取り除くことができますが、病巣の存在に気づかなかったり、またそれらの徹底した除去を行わない方が多く、かなりの確率でこれらの病巣を持っている方がいます。

病巣感染による全身疾患

この病巣が原因となって起こるのが病巣感染です。
病巣感染とは、口に限らず体のどこかに慢性の感染症があり、これが細菌の体への入り口となって細菌が入り込みます。
そして病巣とは離れた臓器に2次的に病気を起こすことです。
病巣との関係性が解明できないことや病巣と発病した場所が離れていることにより直接的な関連性が考えにくいという特徴があります。

リウマチ熱や敗血症などは口からの病巣感染としては良く知られていますが、たとえばアトピー性皮膚炎や掌蹠膿疱症といった病気がむし歯や歯周病などの治療を行い、口の中の慢性の感染を取り除くことによって治癒するようなことがあり、感染症ではないこれらの病気も歯や口にまつわる病巣感染ではないかと考えられます。
このように他の場所が原因で発生した別の場所の病気の炎症などの症状に対し、ステロイドなどを用いて消炎治療を行ったとしても病気自体が治らないことは良くあります。これは発生した症状に対し対症療法を行っているためであり、病気の本当の原因を排除するという原因療法を行っていないためです。
体に不調を訴えて医者に行くと、病気の治療に先駆けて口の中のチェックと治療から始める国もあるほどで、医療の世界では、これらの病巣を取り除くことが重要と着目されています。

全身の健康のためにも、口の中に病巣が無いかを確かめ取り除き、健康に保っておくことが賢明です。

体の不調は、口の中の病気から ~歯周病と糖尿病~

日本人の糖尿病

糖尿病とは、食事により摂取したものから分解された糖分が適切に体に吸収されず血液中に溜まってしまう状態が続く病気です。
この状態が続くことで、心臓病、腎臓病、脳卒中、失明などの合併症が引き起こされますので、決して見過ごすことのできない病気と言えるでしょう。
世界人口の5%が糖尿病患者といわれていますが、日本では平成19年の国民健康・栄養調査から約2200万人の方が糖尿病であるという報告があり、日本においても深刻な病気の一つとなっています。

さて糖尿病の患者さんでは歯周病の悪化が認められることから、かなり以前から歯周病も糖尿病の合併症であると認識されていました。
特に糖尿病の方においては歯周病患者さんの割合が多く、またその症状がより重症化しており、糖尿病があると歯周病が進行するリスクが高いと言えるのです。

なお近年、糖尿病の合併症としての歯周病ではなく、歯周病が糖尿病を引き起こすという新たな状況も確認され始めてきました。

歯周病が糖尿病を引き起こす

歯周病の患者さんでは、糖尿病を発症するリスクが高く、また歯周病がある状態を放置しておくと糖尿病の治療において行う血糖値のコントロールがうまくいかないという報告です。

アメリカ国民健康栄養調査(NHANES)を用いた研究では、歯周病患者における糖尿病有病率は、歯周病の無い人と比較して約2倍もあることが示されています。
ドイツで15年にわたって行われた追跡調査では、歯周病になっているが糖尿病にはなっていない患者群が、歯周病にも糖尿病にもなっていない患者群と比較して、5年経
過後でHbA1cの数値が悪化傾向にあることが見つかりました。

糖尿病患者の95%と言われるⅡ型糖尿病患者に限っては、歯周病における基本治療である歯肉縁上・縁下の歯石除去などの手術を伴わない歯周病治療を行った場合で
も、血糖値のコントロールに対し治療前後のHbA1cの加重平均差が-0.4%と統計学的にみても有意に変化があることが見つかっています。
これは歯周病によって腫れた歯肉から容易に血管内に侵入した細菌が血管内で死滅した後に、その死骸に含まれるエンドトキシンという内毒素が血糖値に影響を及ぼすことによります。血液中の内毒素は脂肪細胞や肝臓からのTNF-αの産生を強力に推し進めますが、これには血液中の糖分の取り込みを抑える働きもあるため、血糖値を下げるインスリンホルモンの働きを邪魔してしまうことによるのです。

体の一部としての口の管理

多くの方は歯医者を歯の修理屋さんとしてとらえ、口と体は別物のように考えています。
医療教育の現場でも医学部の中に歯科があるのではなく、歯学部が別に分かれて存在します。このため体の病気と口の中のトラブルは別に考えてしまいがちです。
しかし、口の中の問題が体全体に影響していることを考えると、健康な体を保つためには適切なお口の健康管理が不可欠と言えます。

糖尿病がうまくコントロールできない方は、一度お口の状態をチェックしてもらうことが良いでしょう。

「長持ちする歯科治療」~完全歯科医療の概念~

私が出会ったアメリカの歯科医

卒業後3年の勤務医生活を終えた私は、翌年に控えた自らの歯科医院の開業を前にアメリカへと留学しました。
その目的は、完全歯科医療をめざした診療を行っている歯科医師たちに会い、またその歯科医師たちが師事する咬合学(かみ合わせの理論)の大家P.E.Dawson先生のセミナーを受講することでした。
当時の彼は臨床歯科医師でありながらフロリダ大学での研究、さらには全世界の歯科医師を対象とした卒後研修セミナーを開催しているという、異色の活動を行う歯科医師でした。

患者さんに行う歯科治療の理論的説明

彼は完全歯科医療の概念に基づき、診査診断を行い、そして発見された問題を解決することによって、長期にわたり壊れない長持ちする歯科医療を実践していました。
その治療について患者さんに行う説明を、彼の著書[オクルージョンの臨床:日本語訳版]の中で以下のように紹介しています。

「あなたが口を健康にし、それを維持しようとするならば、われわれは次の2つの事を達成しなくてはなりません。

1、あなたの口の中で完全な清掃ができない場所をまったくなくす。

2、破戒的にならない程度まで、あなたの口の中のすべての咬合ストレスを減少させ
る。

これらの2つは私(歯科医師)の責任です。

あなたの責任は、あなたの口を完全に清掃に保ち、もし不均等な咬合ストレス(かみ合わせに違和感を感じること)が発生したら、それを正常に治すことができるように、私たちに知らせることです。
適切な食事と運動を続け、全身の健康を最高水準に維持することも、あなたの責任です。
もし私とあなたが各自の責任を完全に果たせば、あなたの歯を、あなたが必要とする限り守ることができるはずです。

治療が長持ちする訳

この患者さんへの説明文章をもう少しわかりやすく読み解いてみましょう。歯が使えなくなるのは、歯を失うに至らしめる病気が発生するからです。

その病気は、

①むし歯 ②歯周病 ③かみ合わせ です。

これら病気の内、むし歯と歯周病は口の中に住む細菌が原因で起こります。
ですから「完全な清掃ができないところをなくす」、「口を完全に清潔に保ち」という言
葉は、この2つの病気の原因である細菌を完全に取り除ける状態にするということを意味しています。

次に、かみ合わせという病気ですが、これは上下の歯の接触の仕方、顎の動きによる歯のすり合わせにより、歯に無理な力が加わって、歯が欠けたり、磨り減ったり、またグラグラになることで使えなくなることです。
正しい顎関節の位置で咬みあわせが作られていないとか、無理な咬ませ方をしているなどが原因です。
ですから、「咬合ストレスを減少させる」という言葉は、この不良な咬みあわせにより歯が壊れることから歯を守る対策を行うということを意味しています。
このように病気の原因から取り除くことで、新たな病気が発生しないようにすることが、歯を悪くしないと言い切っているのです。

完全歯科医療を行うには

治療結果が長持ちし、いつまでも快適に歯が使い続けられるためには完全歯科医療の概念に基づき治療を受けることです。
そのためには正しい診査・診断が不可欠となります。治療にあたっては、気になるところからやみくもに始めるということをしてはいけません。
口全体が一つの臓器ですから、総合的に評価を受けてから治療を受けてください。

それが何度も治療をやり直すということを防ぐ唯一の方法です。

生涯入れ歯にならないために ~歯を失う4つの病気を正しく理解しよう~

歯は悪くならない???

歯は正しく管理すれば悪くなることはありません。それどころか生涯にわたり入れ歯になることはなく、使い続けることができます。
そのためには歯を失わないことが大切であり、歯を失うに至らしめる病気が発生しなければよいのです。

この歯を失うに至らしめる病気は4つしかありません。
ですから、この4つの病気を正しく理解し、しっかりと管理を行うことが大切なのです。

病気① むし歯
歯自体が壊れていく病気を「むし歯」と呼びます。これはお口の中に棲みついている細菌が原因です。この細菌は口の中に入った糖分を原料として乳酸という酸を作ります。この酸が歯を溶かしていく病気の事です。歯のかみ合わせの面の溝や歯と歯の間部分から発生する事が多い病気です。
勝手に治ることはありません。
このむし歯から歯を守る方策は、細菌の量を問題が発生しない量にまで少なくすか、あるいは原料となる糖分の供給を減らすことです。
具体的には、歯磨きをしっかりと行うことと甘い物の食べ方に注意をすることとなります。これ以外では歯自体のむし歯に対する抵抗力を高めるために、フッ素を積極的に応用する方法も有ります。
あなたに合った予防の方法は歯科医院で指導してもらうことができます。

病気② 歯周病
歯を支える歯ぐきと骨が壊れる病気を「歯周病」と呼びます。口の中に棲みついている細菌が原因ですが、むし歯の原因菌とは異なります。
この細菌は歯と歯ぐきの境目の歯ぐきの溝の中に棲みつき、慢性的に炎症を起こさせ、この炎症により歯ぐきと骨が壊れます。
むし歯同様に勝手に治ることはなく、この細菌を除去することが病気の予防の基本となります。歯ぐきの溝の深さが3㎜程度までならば、自分自身の管理によりこの細菌を確実に除去することが可能ですが、4㎜を超える歯ぐきの溝の深さがある時は、専門家の手助けが必要となります。

病気③ 良くない治療
むし歯や歯周病に侵された所は自然に治ることがないため、何らかの治療により問題解決を行います。
しかしこの治療が正しく行われていない場合、その治療が原因となり新たな虫歯や歯周病を引き起こしたり、本来使える歯の寿命を短くしたりします。これが「良くない治療で、歯を失う病気の一つと考えることができます。
具体的には、適合の精度が低い治療物や不完全な歯の根の治療などです。治療における重要なポイントは、精度が高く、口全体としてバランス良く治療がなされていることです。
このためには、治療に用いる材料に良い材質を選ぶこと、そして治療後には処置状態の確認をすることが効果的です。

病気④ かみ合わせ
上下の歯の接触の仕方が悪く、歯に無理な力が加わって歯が壊れるのが「かみ合わせ」の病気です。
口という臓器はあごの関節、あごを動かす筋肉、そして上下の歯によって構成される臓器です。この臓器は非常に敏感で30ミクロン(1㎜の1000分の30)の厚みでも敏感に感じる事が出来ます。
このため正しい位置で上下の歯が接触しない場合や、円滑な下あごの動きを妨げるようなすり合わせの状態が歯のかみ合わせ面にあると、歯に無理な力が加わり、歯が欠けたり、グラグラになったり、肩こりや顎関節の痛みなどを引き起こしたりします。
歯科医師が適切なかみ合わせの調整を行うことによりこの病気から歯を守ることができます。

病気を正しく確認すること

歯を失わないためには、これら4つの病気が発生していないかどうかを正しく確認することが不可欠です。
ですから治療に先駆け精密な検査を行い、この様子を見極め、効率的・効果的に対処してもらう事が必要となるのです。
自分のお口の様子を正しく確認されたい方にはデンタルドックが有効です。

セカンドオピニオンのすすめ ~治療に安心・納得できていますか?~

募る不安

虫歯・歯周病やかみ合わせの問題、病気の名前は知っていても詳しい内容と
なるとわかりません。

さらにその治療法となると詳しいことはわからず、主治医の先生のご指導の下、
その治療を了解して受けるしかありませんでした。

治療が終わっても違和感が残ったり、痛みが消えなかったりと

本当にこれで大丈夫なの? 

治っているの?

こんな不安をお持ちの方が多いのが実情です。
しかし、さらに相談するすべもなく、主治医の先生のアドバイスを頼りに我慢の日々が続いています。

こんな時どうしたらよいのでしょうか?

 

歯を失う4つの病気

口の中にはいろんな病気が起こります。当然癌だって発生します。
しかし生きている間ずっと使い続ける自分の歯を失わないためには、歯を失う病気から歯を守ることがポイントとなります。

この歯を失う病気には4つの種類があり、それが単独あるいは複数で絡み合いながら
発生しています。
4つの病気とは、

①歯自体が壊れる虫歯

②歯を支える歯茎と骨が壊れる歯周病

③規定通りに正しく治療ができていない不良な治療

④上下の歯が正しい位置でかみ合っていなかったりスムーズに働けな
いために歯が壊れるかみ合わせの病気

です。
これらの病気を正しく確認し、絡み合った紐をほどくようにすべての病気に対し
取り組まなくては、病気による症状は改善せず、一生歯を使うことはできません。

歯を失う4つの病気

歯科医師が違うとこれらの4つの病気の診断とその治療方法は変わります。
これは歯科医師という立場が互いに独立しており、それぞれが自由な裁量権をもつことが法律により定められていることに由来します。
ですから、

A先生は「この歯はだめなので抜くしかない」
と診断し治療計画を決めたとしても、

B先生では「いろんな治療方法を組み合わせ、歯を抜かずに治療する」
という診断と治療計画を提示されることになるのです。

これはどちらかが正しいのではなく、どちらも正しいわけで、それぞれの診断と
治療計画ではそれぞれに利点と欠点があることを理解しなくてはなりません。

患者さんはこれらの複数の診断と治療計画を比較検討し、そのうえで自分に
合った方法を選択しなくてはならないのです。

セカンドオピニオンのすすめ

このように複数の意見を比較検討し自分に合った方針を決定するために行う手順を
セカンドオピニオンと呼びます。

患者さんが治療方法を選択するには納得できるまで主治医と相談して決めることが重要です。
しかし一人の先生の診断に頼っては、ほかの治療方法を選択するチャンスが失われてしまうのです。

このため自分の意に反した方法を了承し、不安を残しながら治療を決めなくてはな
らなくなってしまいます。

ですから別の歯科医師の意見を聞いてみて、自分に合った治療方法や納得できない
診断や治療結果に対し、比較検討するわけです。

セカンドオピニオンを受けたからと言って主治医に責められることはありません。
むしろ主治医は積極的にセカンドオピニオンを受けようとする患者さんを応援する
ことが義務付けられています。

たとえば、相談できる専門医を紹介したり、
そのために主治医の先生の持っている診断資料を貸し出したりもします。

デンタルドックを活用しよう

セカンドオピニオンを求める歯科医師が見つからないとき役立つのが
デンタルドックです。
お口の人間ドックであるデンタルドックでは、口の中の詳しい様子を知る
ことができます。

あなたの歯を守るためにデンタルドックを活用してみてはいかがでしょうか?