血管を守って、老化を防ごう! ~血管病と歯周病~

歯周病は慢性炎症

歯周病が歯ぐきの病気だということはどなたでもご存じの事柄です。

しかし、歯周病が炎症を主体とする病気であるという認識は少ないのが現状です。

歯周病は歯ぐきの溝の中の歯と接する歯ぐきの部分の炎症による病気です。
歯ぐきの溝の深さが4mm程度の方であれば、その炎症を起こしている歯ぐきの総面積は手のひらぐらいの大きさ約75㎠ほどもあり、その部分が腫れているだけでなく出血や膿を出し、さらには細菌が継続的に感染する温床となる病気です。
もし身体のどこかに手のひらほどの大きさでこのような状況を起こしているところがあるとすると、放置する人はいないでしょう。
しかし歯周病はそのような炎症を起こしているにも関わらず、放置されている場所であり、慢性炎症として体に影響を与え続ける病巣なのです。

慢性炎症が病気を引き起こす

慢性的な炎症が病気を発症させることはよく知られています。
肝炎ウイルスで発症した肝炎は肝硬変から肝がんへと移行しますし、ピロリ菌で発症した胃炎は胃がんになり、HPV感染は子宮頸がんを発症させるなど、慢性の炎症は身体を蝕みます。
同様に歯周病により細菌が血管内へと侵入することにより、動脈硬化を引き起こしひいては脳・心筋梗塞を引き起こします。
また炎症により作り出された炎症性サイトカインが体内に持続的に供給されると糖尿病を発症させます。

炎症は血管を傷め、老いを早める

医学博士のウイリアム・オスラー氏は「人は血管とともに老いる」という言葉を残しておられますが、加齢は動脈硬化の主たる危険因子の一つです。
つまり加齢により血管が本来持っている様々な機能が次第に低下するわけで、特に血管の弾性が低下することが問題となります。
加齢による変化は歯ぐきの血管でも同様に発生し、この結果歯周病に対する抵抗力は低下します。
すると炎症はさらに重篤化・慢性化していくこととなり、歯周病菌やその細菌が作り出す毒素、炎症性物質が血管内に入り込むこととなるのです。
血管内に侵入した細菌は、血管内壁にできたアテローム内に侵入し増殖して血管をふさいだり、それが剥がれて血栓となり血管を詰まらせることで梗塞を引き起こすのです。

歯周病が関係する全身の病気

歯周病に関係するといわれる病気は血管病だけではありません。
糖尿病、メタボリックシンドローム、骨粗しょう症、誤嚥性肺炎などの呼吸器系疾患、早産や低体重児出産の発症など様々です。
つまり、身体の一部に継続的な炎症箇所があること自体が問題であり、この歯ぐきという箇所が身体に対しての感染の入り口になっているということを理解しなければなりません。
そしてこの炎症を取り除くという意識が重要となります。

歯周病の治し方

歯周病への取り組みは至ってシンプルであり、歯周病の原因となる細菌の量を問題がないレベルまで減らすことに尽きるといえます。
しかし複雑な形をしている口の中の細菌を取り除くことは困難な作業でもあります。
きれいに整った歯並びで病気が発症していない状況から細菌除去を始めるとその作業は簡単ですが、歯列が乱れていたり、不正な形や不適合な状態の修復物が入っていると掃除ができません。
また、いったん歯周病が発症し深い歯周ポケットができてしまうとその部分を自力で清掃することもできません。
なんら症状を感じていなかったとしても、できるだけ早期に精密な検査を受け、歯周病の状況を正しく見極めておきましょう。

もし歯周病が見つかったならば、まずは細菌の少ない口の中の状況を作りあげ、この状況を維持するメンテナンスの体制を整えることが賢明です。

体の不調は、口の中の病気から ~歯周病と心臓血管疾患~

炎症は手のひらサイズ

鼻・目・耳、体のどの部分を少々強く触ったとしても、血が出ることはありません。
しかし歯磨きのブラシの毛先が歯ぐきに触れるだけで血が出ることがあります。
このことは体の健康という観点からみると大変異常なことだと言えます。

歯周病は口の中の細菌が原因で歯ぐきに炎症を起こす病気です。
歯と歯ぐきの隙間の溝の中で細菌が繁殖し、さらにこの溝を深くして歯周ポケットを作り上げながら病気が進行します。
歯周ポケットの深さが5~6mmという中程度の歯周病の場合では、その炎症を起こしている歯周ポケットの総面積が約72㎠となります。
これは大人の手のひらの面積とほぼ同様の大きさなのです。
もし体のどこかに手のひらサイズの腫れがあり、出血していると放置することはありません。
しかし口の中ではこのような状態が常時発生し放置されているのです。

この炎症が発生している個所からは、口の中に住み着いている多くの細菌や細菌が作り出した有害物質が体の中に侵入し、さらに血管の中へと入り込み、全身へと広がっていくのです。
歯周病が厄介なのはこの病気が慢性疾患であるために、このような状況が持続的に影響していることです。
この結果様々な病気を引き起こしますが、現在わかっているだけで動脈硬化などの血管系の病気をはじめ、心臓病、肺炎、糖尿病や妊婦さんにおける早期低体重児出産などがあります。

歯周病と心臓血管疾患

疫学的研究から、歯周病は心臓血管疾患のリスク因子の一つとして注目されています。
これまでの研究結果によると、歯周病にかかっている人はそうでない人に比べ、1.5~2.8倍も心臓血管疾患を発症しやすいことや、心臓血管疾患の原因となるアテローム性動脈硬化症の程度が歯周病と関係していることなどが報告されています。
歯周病が心臓血管疾患に影響を与えるのは、歯周病により歯肉で炎症が起こることによります。
炎症が起こっている歯ぐきではサイトカインと呼ばれる炎症性物質が作られ、この物質や歯周病菌が血液により心臓まで運ばれるのです。
そこで血管内皮細胞や脂肪性沈着物中のマクロファージを活性化させ、その結果として心臓の血管の栓塞を引き起こすのであると考えられています。
この見解は脂肪性沈着睦の中から歯周病菌のDNAが見つかったことから発見されました。
また細菌性心内膜炎を起こした心臓の弁からは歯周病菌が確認されています。
これは同じく血流により運ばれた歯周病の細菌が、血液の滞留しやすい弁の周囲で定着してしまい、さらにそこで増殖することによって起こることが確認されています。
さらに細菌が増えて大きくなった塊が、血流にのってほかの場所へと移動し、脳の細い血管で詰まってしまうことがあります。
この場合には、脳梗塞を起こしてしまうわけで、やはりまた命に関わる病気につながるのです。

病巣感染という概念の重要性

口の中の病気については、「最悪歯が無くなる程度の事であって命に関わることはない」と言うのが一般的な概念でした。
ですから口の中の病気を深刻に考える患者さんは少なく、また歯科医師でさえ壊れた歯の修理だけを考えていました。
しかしほかの場所で発生する病気の原因が詳しく解明される中で、口の中の病気が病巣となっている病気が数多く見つかっています。
本来体の中には存在しない細菌が体の中に入ることで発生する病気は、その感染経路を確実に取り除くことが重要であり、その一つが歯周病を取り除くことなのです。

歯周病は治せる病気です。歯医者さんと相談して、しっかりと取り組みましょう。