歯科医療が支える健康寿命 ~予防歯科最前線 プロバイオティクスを用いたバクテリアセラピー~

予防歯科の流れ

歯に発生する病気は、微生物が原因で発生するむし歯や歯周病、不適切な歯科治療、そして無理な力が加わって歯が壊れる咬合病があります。
そこでむし歯や歯周病に対しては、これらの病気の原因である微生物を取り除くことにその基本がおかれてきました。

スウェーデンから提唱された治療方法では、徹底した歯磨きの実践と専門家によるクリーニングを組み合わせて微生物を除去することで歯周病を発症させず、さらにむし歯に対してはフッ素を活用して対処してきました。
この流れを受け多くの歯科医院では、予防歯科と銘打って歯科衛生士による定期的なクリーニングの支援が行われています。

しかしながら微生物を除去するという方法には限界があります。
いくら微生物を取り除いてもゼロになることはなく、一定の時間によりその量は元に戻ります。
そこで考えられた新しい予防歯科の手法は、この微生物を取り除くのではなく、うまく活用することで口の中の健康を保つという考えかたであり、これがプロバイオティクスを用いたバクテリアセラピーです。

微生物と共存する

プロバイオティクスとは身体に有益な影響を与える微生物を含む食品や医薬品のことであり、代表的なものとしては腸内フローラを健康にするという観点から注目された善玉菌(乳酸菌やビフィズス菌など)というとご理解いただけるでしょう。

人がその生を続けて健康に過ごすために不可欠な要素は、体中の細胞に対し活動の源となるエネルギーを供給することであり、口から始まる消化器官は一手にその役割を担っています。
その際共存する微生物の働きは重要で、その微生物の構成次第では円滑な栄養摂取の機能が働かず、体調不良や病気を発症してしまいます。

ですからプロバイオティクスを摂取して健康な状態を確保しようというわけです。
微生物との共存が最初に注目された腸内では、栄養の消化吸収にこれらが深く関わっていたためですが、同じ消化器官の口では少し考え方が異なります。
口が栄養摂取のための臓器という観点からは、歯を守り噛む機能を維持すること、また感染を防ぐという観点からは、有害微生物が身体の中へ入り込まないようにその量を減らすことが重要です。
これらの点から口内フローラをどのように構成するべきなのかについて考え、
プロバイオティクスを活用するわけです。

プロバイオティクスとしてのロイテリ菌

ラクトバチルス・ロイテリ菌は、WHO/FAOが要求している(WHO/FAO 2002)人間の健康に有益な影響を与える「プロバイオティクス」のすべての条件をもっている乳酸菌です。
その安全性や効果については多くの研究結果が論文として発表されています。
この菌は口の中においても、歯周病菌や虫歯菌の増殖を抑制する効果、重度から中程度の歯肉炎を緩和、さらには口臭の抑制効果や病原菌の温床となる歯垢の形成も抑制する効果を持っています。

ロイテリ菌を使った新しい予防歯科

病原菌を有益な効果を発揮する微生物で駆逐する治療法がバクテリアセラピーです。ヒト本来の微生物と共存するという状況を壊すことなく、病原菌の比率を下げ、悪影響を排除するという考え方です。

このバクテリアセラピーを従来の除菌とバランスよく併用することで、口の中に発症するむし歯や歯周病といった微生物による病気を予防することができます。

全く新しい考え方による予防方法ですが、大変有効な手法です。

ますます高齢化が進み、健康に生きるということが生活の質を左右します。
その反面若いときに何気なくできたことが徐々にできなくなるのもまた自然な流れであり、歯磨きによる微生物の除去にも限界がおとずれます。
旧来の微生物を除去する一辺倒の予防では、歯磨きができなくなると発病してしまいます。
ですから『病気を引き起こす原因菌を健康に寄与する良い菌により減らす』という取り組みが、これからの新しい予防の流れとなっていくでしょう。