体をむしばむ、歯周病 ~健康な体は口の健康管理から~

病気が起こるということ

身体の調子が悪くなる、いろんな病気にかかる、これは本来のあるべき体の状態が保たれていないことが原因です。
この本来あるべき体の状態から外れてしまうには大きく2つの状況が関係します。
一つには本来体の中には存在しない物が体に侵入するいわゆる「感染」です。
そしてもう一つは、健康な体を維持する仕組みが壊れる、「栄養失調」です。

感染は、体の中に細菌やウイルスが侵入することから引き起こされますが、その入り口となるのが感染源であり、慢性的に人が持っているこの感染源には3つの個所があります。
それは、上咽頭(鼻とのどの移行部分)、根尖病巣(歯の根の先端部の炎症部分)、そして歯周病です。
これらの場所では慢性的に炎症が発生しており、24時間休むことなく体がそこにいる細菌や細菌が作り出す毒素などと闘っています。
その一部は血管を通じて体内に入り込み病気を引き起こします。

栄養失調は、カロリー不足ではなく必要な栄養素の不足の状態を意味します。
腸内からの栄養吸収が悪くなったり、また体内のビタミンやミネラルの不足が原因です。
現代人では、食生活に偏りがあることや、食品自体(特に野菜)が含む栄養素の量が激減しているため、食べているようでも栄養素が不足する状況が発生しています。
このことにより分子レベルでの体の機能不全が発生し、その状態が長期化することで病気へと移行してしまうのです。

歯周病がもたらす全身の病気

近年病気の実態が詳しく解明されるようになり、歯周病が感染源として様々な全身の病気に関わっていることがわかってきています。
歯周病が発生している歯ぐきの溝の中では、細菌が作り出す毒素や細菌自体の組織内への侵入に対抗して、免疫システム働き体を守ろうとします。
この免疫システムでは、炎症が起こっているところで炎症性サイトカインが作られます。
たとえばこの炎症性サイトカインが血液により運び出されると、血糖値を下げる働きをするインスリンの作用を妨げるため、血糖値のコントロールがうまくできなくなり糖尿病が悪化するのです。

また、歯周病により侵入した細菌や歯周病関連物質が血流で運ばれ、動脈内のアテローム(粉瘤)内に侵入ることにより、そこが免疫応答の舞台となります。
これによりアテローム状態を増悪化させ、動脈硬化を重症化させるとともに、虚血性心疾患を起こすなどの症状へと進行させてしまいます。
この結果、いわゆるメタボリックドミノが起こってしまうのです。

歯周病の診断と対処

「リンゴをかじると血が出ませんか」と言うフレーズの宣伝は50年ほど前のものですが、歯周病は生活習慣病で大変ゆっくりと進む慢性疾患であるため、ほとんどの方が重症化するまで気づきません。
もっとも簡便な病気の検査方法は歯科医院で歯周ポケットの深さと出血状態を確認することです。
それに伴いレントゲン写真を撮影することも有効です。
歯周病が進行すると歯を支える骨が壊れますから、その様子を確認すれば病状がわかります。
もし問題があれば、お口の衛生状態を改善し、歯周ポケット内部の細菌を取り除くことで中程度までの歯周病は改善できます。
万一進行していた場合でも、外科処置を併用すれば改善が可能な場合もあります。
まずは自分の状態の確認が第一、しっかりとした検査を歯科医院で受診されることがあなたの体を守ることに繋がります。

 

体の不調は、口の中の病気から ~歯周病と心臓血管疾患~

炎症は手のひらサイズ

鼻・目・耳、体のどの部分を少々強く触ったとしても、血が出ることはありません。
しかし歯磨きのブラシの毛先が歯ぐきに触れるだけで血が出ることがあります。
このことは体の健康という観点からみると大変異常なことだと言えます。

歯周病は口の中の細菌が原因で歯ぐきに炎症を起こす病気です。
歯と歯ぐきの隙間の溝の中で細菌が繁殖し、さらにこの溝を深くして歯周ポケットを作り上げながら病気が進行します。
歯周ポケットの深さが5~6mmという中程度の歯周病の場合では、その炎症を起こしている歯周ポケットの総面積が約72㎠となります。
これは大人の手のひらの面積とほぼ同様の大きさなのです。
もし体のどこかに手のひらサイズの腫れがあり、出血していると放置することはありません。
しかし口の中ではこのような状態が常時発生し放置されているのです。

この炎症が発生している個所からは、口の中に住み着いている多くの細菌や細菌が作り出した有害物質が体の中に侵入し、さらに血管の中へと入り込み、全身へと広がっていくのです。
歯周病が厄介なのはこの病気が慢性疾患であるために、このような状況が持続的に影響していることです。
この結果様々な病気を引き起こしますが、現在わかっているだけで動脈硬化などの血管系の病気をはじめ、心臓病、肺炎、糖尿病や妊婦さんにおける早期低体重児出産などがあります。

歯周病と心臓血管疾患

疫学的研究から、歯周病は心臓血管疾患のリスク因子の一つとして注目されています。
これまでの研究結果によると、歯周病にかかっている人はそうでない人に比べ、1.5~2.8倍も心臓血管疾患を発症しやすいことや、心臓血管疾患の原因となるアテローム性動脈硬化症の程度が歯周病と関係していることなどが報告されています。
歯周病が心臓血管疾患に影響を与えるのは、歯周病により歯肉で炎症が起こることによります。
炎症が起こっている歯ぐきではサイトカインと呼ばれる炎症性物質が作られ、この物質や歯周病菌が血液により心臓まで運ばれるのです。
そこで血管内皮細胞や脂肪性沈着物中のマクロファージを活性化させ、その結果として心臓の血管の栓塞を引き起こすのであると考えられています。
この見解は脂肪性沈着睦の中から歯周病菌のDNAが見つかったことから発見されました。
また細菌性心内膜炎を起こした心臓の弁からは歯周病菌が確認されています。
これは同じく血流により運ばれた歯周病の細菌が、血液の滞留しやすい弁の周囲で定着してしまい、さらにそこで増殖することによって起こることが確認されています。
さらに細菌が増えて大きくなった塊が、血流にのってほかの場所へと移動し、脳の細い血管で詰まってしまうことがあります。
この場合には、脳梗塞を起こしてしまうわけで、やはりまた命に関わる病気につながるのです。

病巣感染という概念の重要性

口の中の病気については、「最悪歯が無くなる程度の事であって命に関わることはない」と言うのが一般的な概念でした。
ですから口の中の病気を深刻に考える患者さんは少なく、また歯科医師でさえ壊れた歯の修理だけを考えていました。
しかしほかの場所で発生する病気の原因が詳しく解明される中で、口の中の病気が病巣となっている病気が数多く見つかっています。
本来体の中には存在しない細菌が体の中に入ることで発生する病気は、その感染経路を確実に取り除くことが重要であり、その一つが歯周病を取り除くことなのです。

歯周病は治せる病気です。歯医者さんと相談して、しっかりと取り組みましょう。