歯科医療の奔流:患者中心の医療を受けよう

今までの医療

ある患者さんが医者に行った時の笑い話にならない話です。

朝から熱っぽく寒気がして咳が出ている様子から、通院先の先生に
「どうも風邪をひいたようです。注射をしてもらえませんか?」と申し出たところ、
この先生から怒られることになりました。

「誰が風邪と診断したんや! 患者が診断して治療方針を決めるとは何事
や。医者の私が風邪と診断したうえで処置を決めるから、その通りに治療を
受けなさい。」といった具合です。

今までの医療は、医者が診断をし、患者さんの利益となる治療方法を考え、
患者さんはそれに従うという医療者中心のスタイルだったのです。

医療の世界標準は「患者中心」

様々な業界と同様に、医療の世界も変化しています。

その大きな変化のポイントは「医療者中心の医療」から「患者中心の医療」への
変換です。「患者中心の医療」とは、病気や治療に関する様々な情報について
わかりやすく提供を受け、その中から患者さんが自分に合った納得できる方法を
選択するというやり方です。

この「患者中心の医療」では、2つの事柄が満たされている必要があります。
1つには患者の期待に沿った医療であることであり、もう1つは患者の権利が
守られることです。

ではこの2つのことについてもう少し深く考えてみましょう。

患者さんの期待に沿っている医療であるためには

患者さんの悩みは様々です。そしてまた治療した結果に対する期待にも
人それぞれ違います。

とくに歯科医療では、治療の結果が患者さんの生活の質に深く影響することから、
医療者は個々の患者さんの期待をしっかりと聴き取らなくてはうまくいきません。

美しく若々しい口元でいたいと希望される方、おいしくなんでも食べたいと期待され方、カラオケが趣味でうまく発声できる口でなくてはならないと期待される方、様々です。

歯科医療者はこれらの個別の期待にうまく対応するため、様々な歯科医療技術を
習得しており、それを提供するわけですが、そのためには患者さんが何をどのように
期待しているかを聴き取らなければなりません。

患者さんの期待に沿った医療であるためには、患者さんの悩みをじっくりと聴き取り、どのような対応がベストであるのかを見極めるための十分な相談の時間が
必要なのです。

患者さんの権利とは

患者さんが持つ権利は、1995年第47回世界医師会総会にて採択された
「患者の権利に関するリスボン宣言の改訂」に明記されました。この宣言では
患者さんの基本的人権の擁護という基盤に基づきいくつかの項目が列挙されていますが、もっとも重要な項目は、インフォームドコンセントの概念です。

インフォームドコンセントとは、医療における患者さんの自己決定権のことです。
どのような治療を受けるかは患者さん自身が決める、そのために必要な様々な情報
については医療者がその情報を提供する義務を負うというものです。

相談した医療者の内容で納得できない場合は、セカンドオピニオンとして別の医療者に相談することもよいとされています。

患者さんの権利が守られて医療を受けるということは、治療方法やその効果やリスクなど、これから受けようとする医療内容の決定に当たっては、理解でき納得できるまで医療者から説明を受けることができるということです。

「患者中心の医療」を受診するということは、じっくりと相談し納得できるまで説明を
受けたうえで治療を受けるということであり、そのために必要な時間を必要なだけ
使ってもらうということなのです。

次回は、患者中心の医療機関の選択に欠かせない「患者の権利章典」について解説いたします。