噛める入れ歯でなんでも食べる ~コーブルバランサーを用いた古くて新しい総入れ歯づくり~

噛めない、痛い、入れ歯の理由

入れ歯で苦労をされている多くの方は、
「歯もないし、歯ぐきも痩せているから、仕方ない」と諦めておられます。
しかし一方では、入れ歯だけれどしっかりと食事が出来る方もおられます。
この違いはどこにあるのでしょうか?

総入れ歯では支えとなる歯がありませんから、歯ぐきが咬む力を支えます。
しかし入れ歯で咬む力を支えるときには歯ぐきがひしゃげた状態になりますから、この状態が均一になることが重要です。
もし均一にならなければ、特定の場所に力が集中したり、よりひしゃげる方向に入れ歯がずれて痛みを発生させるのです。
つまりこの問題をしっかりと解決したか否かがポイントなのです。

問題が起こる要素

良く噛めて痛くない入れ歯では、入れ歯を支えるすべての歯ぐきにおいてこれらの誤差を補正することが必要です。
多くの場合は入れ歯を入れた後にカチカチと咬みあわせ、入れ歯を使いながら、あちこちを少しずつ調整してこの誤差を整えます。
この調整が厄介であり、手間がかかりますが、もしこの調整を怠ると、噛めない入れ歯、痛い入れ歯となるのです。

もう一つの大切な要素は、上下の顎の距離を整え、前後左右方向へのズレを無くすことです。
噛めて痛くない入れ歯を作るには、あごの関節の正しい位置で上下の入れ歯を噛ませる必要があります。
しかしながら下あごの骨は、左右に関節があり様々な方向に動くことができるうえに、人間の体の中で唯一ぶら下がった状態になっています。
このため正しい前後左右の位置が決めにくいのです。
また、上下の顎の距離については、上顎の歯ぐきの土手の面と下あごの歯ぐきの土手の面がほぼ平行になる状態の高さとし、そのほぼ中央に位置するかみ合わせ面もこの顎の土手と平行になるように噛ませる必要があります。
そうでないと噛んだ時に入れ歯がずれて動いてしまうからです。

実はこれらの事を同時に決定し、作り上げる入れ歯に反映しなくてはならず、これが入れ歯づくりを難しくしているのです。

古くて新しい治療器具

昔から多くの歯科医師がこの難題と取り組んできました。
そこには知恵が凝縮されており、この難題も解決策を見いだしています。
歯医者さんごとにこの問題解決の仕方は異なりますが、私はコーブルバランサーという治療器具を用いています。
写真のような器具を上下の歯の間に取り付け、前後左右の位置、上下の高さを、実際に患者さん自身が咬む力を粘膜に加えた状態で決定する装置です。
中心部の一つの軸で噛む力を支えるため、最も均一に歯ぐきに力を加えた状態で歯ぐきをひしゃげさせて記録が取れます。
日本国内では販売されていないため、この治療器具を用いる歯医者はほんの少しですが、極めて有効な治療器具です。
開発されたのは何十年も前ですが、現在使われない器具が良好な結果を出すという意味では、古くて新しいものと言えるでしょう。

なお、良く噛めていたくない入れ歯づくりにはこのほかにもいろんな配慮が必要です。なかなかうまくいかないという方は、主治医の先生といろんな方法について良く話し合ってみて、少し手間をかけたとしても納得ができる入れ歯を作られることをお勧めいたします。