小さくなった子供の口
「歯は1000年で1%小さくなり、顎は1世代で30%小さくなる」
これは国立博物館主任研究官であった馬場さんの言葉です。
この言葉が意味することは、歯の大きさはおおよそ遺伝的な要素で決まり簡単には変わることがないが、顎の大きさは成長過程の環境の要素で決まりしっかりと使わなければ成長しない、ということを示唆しています。
現代社会では生活環境の急激な変化に伴い顎を使わない生活スタイルが定着しています。
母乳哺育から人工乳哺育へと変化し、また食品加工技術の進化と食品関連企
業の発展は柔らかくて食べやすい加工食品を氾濫させました。
たとえばハンバーガーで昼食を食べる場合と昔ながらのごはんの日本食で昼食を食べる場合を比べてみましょう。
神奈川歯科大学の調査では、同じカロリー数を摂取するためにかまなければならない回数が、ハンバーガー562回に対しごはん食では1019回でした。
つまり噛むという機能を使わない使えない状況となっていることがわかります。
ですから現在の子どもたちでは、歯がきれいに並ぶだけの顎の大きさへと成長する環境自体が無くなっているのです。
実際に幼稚園で歯科検診を行うと、乳歯が隙間なくキレイに生えそろっている子供を多くなっています。
本来乳歯のあとに生えてくる永久歯の方が大きいため、乳歯の時には歯と歯の間に隙間なければなりませんが、この正しい顎の大きさが確保されていないのです。
顎の大きさが小さいと鼻(鼻腔)の容量が小さくなり呼吸をしにくくし、呼吸を補うために口呼吸となります。
また、顎が小さいことで舌が後方に押しやられ気道を圧迫し、睡眠時無呼吸症を起こしやすくします。
この2つの問題が健康で豊かな生活を過ごすための大きな障害となるのです。
新しい矯正治療の概念
矯正という歯科治療は、成長しなかった顎の骨の中に適切に歯が並ぶよう歯を間引いて行う治療方法です。
このため完成した歯並びは小さく、口や鼻の容積を小さくしてしまいます。
この結果、口呼吸や睡眠時無呼吸症が発生しやすい環境を作りだしてしまうのです。
いち早くこのような影響に着目した矯正治療先進国のアメリカでは、歯を間引く従来の矯正治療から、顎の骨自体を大きくして歯を間引くことなく歯並びが整うように支援する矯正治療が採用されるようになってきていました。
上顎に装着する特殊な装置(スケルトンタイプの拡大装置)により、上顎奥歯の位置を左右に広げることによって、口蓋正中縫合という骨の接ぎ目を広げて上顎の大きさを拡大するのです。
このことにより歯を間引く必要が無くなり、きれいな歯並びが確保しやすくなるとともに、口の容積を大きくするのです。
このことは舌の位置を安定化させ、舌の後方圧迫による気道の閉鎖を回避します。
また同時に鼻腔の容積も増やし、鼻からの呼吸を楽にすることにより、口呼吸を回避します。
鼻がよくつまる、口をぽかんと開けている、いびきをかく、食事の時にぺちゃぺちゃ音がする、乳歯の歯並びがきれいで隙間が無い、このような状態を確認されましたら是非とも一度相談されることをお勧めします。
口を健康な状態へと成長発育させることは、子供の将来の生活の質を高めることにつながるのです。