健康保険証は医療機関への入場券
体調が悪くなり、お医者さんへ行く。
この時必ず持参するものが健康保険証です。
このため皆さんにとってこの健康保険証はいわば医療機関への入場券のようなものとなっています。
通院した医療機関にこの健康保険証を提示すれば、国が定めた健康保険制度に基づく保険診療を受診することができます。
費用は全国一律で、処置された内容によって定められているため、安心して治療を受けることができます。
この制度は、憲法第25条「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」に基づいて、創設された制度であり、長期にわたりその制度に慣れ親しんでしまっているため、多くの国民はこの制度の利用に対しなんら疑問点を持たなくなっています。
健康保険制度の良い点
健康保険制度の良い点は、病気になった時に受ける医療サービスを安価で受診することができることです。
この制度は相互扶助という概念をベースとして作られています。
たとえばこの制度に10人の人が参加しているとしましょう。
10人が毎月1,000円の保険料を支払ったとすれば10,000円の医療費の支払い原資が確保されます。もしこのうち一人が病気になり、その時の治療費が10,000円必要だったとします。すると10人から集めた総額の保険料10,000円でこの費用が賄われます。
一人でこの資金を使うことになりますが10人同時に病気になることはないため、翌月にはほかの人が病気になったとしても順繰りにこの費用でみんなの治療費を支払うことができるわけです。
実際には税金からも費用補てんが行われており、このような仕組みによって医療サービスに支払う費用がきわめて安く済むというのが良い点です。
健康保険制度で歯が悪くなる理由
しかしこの制度には利用者に見えていない欠点があります。
それは歯科治療の場合この制度を利用している人で歯を失うことなく守り続けることができた人がほとんどいないということです。
それはこの制度の2つの欠陥による3つの問題によるものです。
1つ目の欠陥は、制度による治療費用設定があまりにも安価であるということです。
歯科医療サービスの提供者である歯科医院はボランティアではなく経営を行っているわけですから、この費用設定の範囲で採算性のある対応を迫られます。
その結果短時間で治療を終えなければならないという事情が生じ、結果として医療の質の低下という1つ目の問題を招きます。
またこのことは患者さんとの会話の時間も生産性に寄与しないという理由から奪ってしまうこととなり、患者さんの期待の確認や正しい情報が提供できず、患者中心の医療展開ができないという2つ目の問題も引き起こします。
2つ目の欠陥は、医療の質の管理ができない仕組みであるということです。
歯科医師が提供した医療の質が医療水準からみた合格点に達していなかったとしても、処置をした歯科医師がこれでOKと判断すれば処置は完了します。
そして処置を行ったという事実に対して支払いが行われるという仕組みです。
つまり医療の質が良かろうが悪かろうがそのチェックはなく、質の低下に歯止めがかからないという3つ目の問題です。
ですからこのような3つの問題により社会保険制度による歯科治療では、質を問わな
い大量生産薄利多売型のビジネスモデルとなり、歯を守るという結果を出せなくなって
いるのです。
患者としての選択
保険制度による歯科医療サービスを患者として選択する場合は、この制度の良い点と悪い点を正しく理解して選択する必要があります。
もし自分自身の歯を失うことなく快適に使う、あるいは失った機能や美しさを満足できるよう取戻したい時は、治療に先立ち妥協せず納得できるまで歯科医師とじっくり相談することが大切です。