歯科医療が支える健康寿命 ~命を脅かす歯周病~

生きるということ

どなたにも公平に命の終わりは訪れます。生き物である限りこれは避けることができない現実でしょう。
しかしその時までをどのように過ごすかは自分の意志で変えることができます。

健康でやりたい事が自分の力でやりきれる人生を謳歌するためには、健康であることが基本です。
その健康は、体に感染がなく、適切に栄養が摂取でき、十分な酸素を取り込める状態により確保され、これらはすべて口の健康と深い関係を持っています。
ですから健康に生きるということは、口の中に問題がない状態によって手に入れることができるのです。

歯周病の先にある病気

口の健康管理を行う上で注目されるのは歯周病です。
歯周病は単純に歯を失うという病気ではなく、その病気が発生している個所において慢性の炎症を起こしていること、さらにはそこが身体の中への感染ルートになっていることが問題です。
このことによりほかの病気を引き起こす原因となっています。

歯周病の病変部では炎症性サイトカインが産生され体中に広がるだけでなく、同時に歯周病菌などが血管内部に侵襲します。
これらが血管の細胞を傷つけ炎症を起こし、さらにそこにはコレステロールなどが付着してアテロームと呼ばれるこぶを形成します。
このようにして動脈硬化が発症し、血管が詰まると脳梗塞や心筋梗塞を引き起こしてしまうのです。
また炎症性サイトカインはインスリンの効果を抑制するため糖尿病が発症したり悪化したりします。
ほかにもリウマチや骨粗鬆症、妊婦さんでは早産の原因にもなることがわかっています。
ですから歯周病だけを考えるのではなくその先で発症する病気のことを考え、それらの病気からあなたの身体を守るという観点で歯周病と取り組まなくてはなりません。

なぜ歯周病が改善しないのか

日本人の90%もの人が歯周病にかかっているという報告があり、その症状が重篤化したことで悩んでいる方は大勢おられます。
その多くの方は歯周病がどのような病気であるのかを知りません。
また歯周病に罹患していることに気づいていない方もおられます。
これは歯周病がサイレントディジーズと呼ばれ気づかないうちに徐々に進んでしまう病気だからです。
歯周病を克服するためには、正しい知識を持ち正確に自分の状況を評価することが不可欠です。
そのためにはしっかりと歯周病と向き合ってくれる歯科医師を主治医に持ち、精密な検査を行って病状を正確に把握し、着実に治療を進めることが必要です。
また治療以外に生活習慣を見直すことも必要で、口の中の衛生管理や食生活の改善の支援も主治医から受けなくてはなりません。
さらに最新の予防方法では、口の中の歯周病菌の比率を減らす細菌の入れ替えを進める方法(3DS)も取り入れられるようになり有効な対処方法でもあります。
歯周病を放置した時に失うのは歯だけでなく、口が健康であることにより支えられている健康な身体、そしてその体がもたらす豊かな生活さえも失うということを理解しましょう。
そしてあなたの生活を守るために、適切な主治医を持ち、最善の治療を受診することが必要です。

 

血管を守って、老化を防ごう! ~血管病と歯周病~

歯周病は慢性炎症

歯周病が歯ぐきの病気だということはどなたでもご存じの事柄です。

しかし、歯周病が炎症を主体とする病気であるという認識は少ないのが現状です。

歯周病は歯ぐきの溝の中の歯と接する歯ぐきの部分の炎症による病気です。
歯ぐきの溝の深さが4mm程度の方であれば、その炎症を起こしている歯ぐきの総面積は手のひらぐらいの大きさ約75㎠ほどもあり、その部分が腫れているだけでなく出血や膿を出し、さらには細菌が継続的に感染する温床となる病気です。
もし身体のどこかに手のひらほどの大きさでこのような状況を起こしているところがあるとすると、放置する人はいないでしょう。
しかし歯周病はそのような炎症を起こしているにも関わらず、放置されている場所であり、慢性炎症として体に影響を与え続ける病巣なのです。

慢性炎症が病気を引き起こす

慢性的な炎症が病気を発症させることはよく知られています。
肝炎ウイルスで発症した肝炎は肝硬変から肝がんへと移行しますし、ピロリ菌で発症した胃炎は胃がんになり、HPV感染は子宮頸がんを発症させるなど、慢性の炎症は身体を蝕みます。
同様に歯周病により細菌が血管内へと侵入することにより、動脈硬化を引き起こしひいては脳・心筋梗塞を引き起こします。
また炎症により作り出された炎症性サイトカインが体内に持続的に供給されると糖尿病を発症させます。

炎症は血管を傷め、老いを早める

医学博士のウイリアム・オスラー氏は「人は血管とともに老いる」という言葉を残しておられますが、加齢は動脈硬化の主たる危険因子の一つです。
つまり加齢により血管が本来持っている様々な機能が次第に低下するわけで、特に血管の弾性が低下することが問題となります。
加齢による変化は歯ぐきの血管でも同様に発生し、この結果歯周病に対する抵抗力は低下します。
すると炎症はさらに重篤化・慢性化していくこととなり、歯周病菌やその細菌が作り出す毒素、炎症性物質が血管内に入り込むこととなるのです。
血管内に侵入した細菌は、血管内壁にできたアテローム内に侵入し増殖して血管をふさいだり、それが剥がれて血栓となり血管を詰まらせることで梗塞を引き起こすのです。

歯周病が関係する全身の病気

歯周病に関係するといわれる病気は血管病だけではありません。
糖尿病、メタボリックシンドローム、骨粗しょう症、誤嚥性肺炎などの呼吸器系疾患、早産や低体重児出産の発症など様々です。
つまり、身体の一部に継続的な炎症箇所があること自体が問題であり、この歯ぐきという箇所が身体に対しての感染の入り口になっているということを理解しなければなりません。
そしてこの炎症を取り除くという意識が重要となります。

歯周病の治し方

歯周病への取り組みは至ってシンプルであり、歯周病の原因となる細菌の量を問題がないレベルまで減らすことに尽きるといえます。
しかし複雑な形をしている口の中の細菌を取り除くことは困難な作業でもあります。
きれいに整った歯並びで病気が発症していない状況から細菌除去を始めるとその作業は簡単ですが、歯列が乱れていたり、不正な形や不適合な状態の修復物が入っていると掃除ができません。
また、いったん歯周病が発症し深い歯周ポケットができてしまうとその部分を自力で清掃することもできません。
なんら症状を感じていなかったとしても、できるだけ早期に精密な検査を受け、歯周病の状況を正しく見極めておきましょう。

もし歯周病が見つかったならば、まずは細菌の少ない口の中の状況を作りあげ、この状況を維持するメンテナンスの体制を整えることが賢明です。

歯周病は治るの?治らないの? ~歯周病改善の正しい手順~

歯周病はどんな病気?

歯周病と診断を受けてから年を追うごとに歯が少なくなり、そのたびごとに治療を繰り返している。こんな状態になっていませんか?

歯周病は歯と歯ぐきの境目に付着した歯周病原因菌やこの細菌が作り出す毒素が歯ぐきの中に侵入することで、身体の免疫機能が働き、その結果として歯を支える歯茎や骨を破壊してしまう病気です。
さらにこの病気の恐ろしい点は、口の中の問題だけでなく糖尿病や脳・心筋梗塞といった血管の病気を引き起こすことです。
つまり命に関わる病気だということです。

この病気の治療では以下のような適切な手順を確実に実践することが必要です。

細菌を取り除く

歯周病の原因は口の中の細菌であり、歯周病の治療ではこの細菌を取り除くことが最も重要で基本的なこととなります。

細菌を取り除くには自分自身で行う歯磨きと、専門家が行うプロフェッショナルクリーニングとがあります。

歯磨きは、個々の患者さんの歯の状態に応じた清掃具の選択とその使い方を習得し、日々実践していただくことです。
プロフェッショナルクリーニングは歯石除去のほか、患者さん自身では清掃できない
箇所について清掃を手伝うことです。
場合によっては薬剤を併用したり、専用の器具を利用します。

歯ぐきと骨の形を整える

歯周病で骨が破壊されている場合は、歯周ポケットと呼ばれる管理できない歯ぐきの溝が残ります。
この場合は歯周外科処置によりポケットを取り除くとともに、骨の形を整えたり骨を再生させたりします。
歯並びが悪い場合には歯の位置を移動させ、また適合性の悪いかぶせや詰め物がある場合もそれらを取り換え、清掃性の高い状態に口の中の環境を整えます。

栄養状態を整える

歯周病の治療では損なわれた組織を回復させるため必要な栄養の補給が必要です。ビタミン・ミネラルを含めた五大栄養素の体内状況を確認し、食事を改善したりサプリメ
ントや点滴を用いて不足している栄養を補給します。

咬み合わせを整える

最終的に行う処置は咬み合わせです。適正な顎関節の位置で上下の歯が接触し、さらにはスムーズに動けるように整えます。
ダメージを受けた骨の状態に合わせて咬み合わせにより加わる力を負担できる状態にまでコントロールすることが、歯の維持には不可欠となります。

この後に行われるのがメンテナンスであり、健康を維持増進するために省くことはできません。
もしあなたが歯周病を克服できていないのであれば、これらの正しい歯周病の治療プロセスのどこかに不足があります。

セカンドオピニオンを受け、不足の部分を確かめて改善を行うことがあなたの歯と健康、そして豊かな生活を守ることに繋がります。

健全な口が健康の基本 ~これからの歯科医療の役割~

目指せ! ピンピンコロリ!

長野県佐久市の成田山参道にはピンピンコロリ地蔵尊というユニークなお地蔵さんがあり、多くのご年配の方々がお参りにお越しになります。
このお地蔵さん、健康なまま天寿を全うする意味の「健康で長生きし【ピンピン】寝込まず楽に大往生する【コロ】」をヒントに命名されたのでした。

ではどのようにすればピンピンコロリの人生が迎えられるのでしょうか?

ピンピンコロリで人生を終えるには、天寿を全うするその時まで病気にならないことが必要です。
そこで予防医療の観点から病気になる原因を探ってみました。
すると、病気になるには大きく3つの原因があり、これらの原因を取り除けば病気にならないということがわかりました。

この3つとは、

①感染【体の中にはないものが入り込む】

②栄養失調【身体を維持するために必要な栄養素の種類と量が足りない】

③酸素【細胞が必要とする酸素が適切に取り込まれない】

です。

そしてこれら3つの事柄は口の管理と深く関係していることもわかりました。
ですから、ピンピンコロリを目指すのであれば、口を健康に保つことが重要となるわけです。

感染を防ぐ歯科医療

身体の中に本来無いものが入り込むことを感染といいます。

冬に流行するインフルエンザもその一つであり、ウイルスが身体の中に入り込んで発症します。
これらの細菌やウイルス(※感染ではないが水銀など有害金属の体内への蓄積も同様に考える)は、3大感染経路を伝って身体の中に侵入します。
3大感染経路とは、上咽頭(鼻と口のつながる喉の上部)、歯周病発症部根尖病変部(歯の根の先端の炎症部分)なのです。
3つのうち2つは歯科治療で取り扱う病気です。
また上咽頭部からの感染は、上咽頭部の通気量が少ないと起こりやすく、これもまた顎の成長発育、口腔周囲の筋の使い方と関連しています。

ですから、口にまつわる病気は徹底的に取り除き感染を未然に防ぐことが病気を防ぐことになるのです。

栄養摂取を守る歯科医療

歯が悪くなると食材を選ぶようになります。
硬いもの繊維質のものなどは食べずらくなり、結果お米や麺類など、お腹の満腹感を満たそうと炭水化物に偏った食生活に陥ります。

この結果栄養摂取の種類と量に偏りができ、細胞の修復機能が低下したり、酵素やホルモンが作れなかったり、身体の酸化が進んだり、また血糖値の調整障害などを引き起こすのです。

どのような食材も選ばずにしっかりと食べられる、噛める口を確保することは健康管理の基本であり、歯科医療の役割です。

呼吸器を育てる歯科医療 口は消化器の一部であり、身体に酸素を取り込む呼吸器ではありません。
しかし呼吸器の鼻と口は上下の関係であり、なおかつ喉(咽頭)の部分では酸素と食べ物の通り道を共有しています。
このため口という臓器の健全な成長発達が呼吸にも影響を与えますし、また呼吸の仕方が口にも影響します。

近年歯並びが悪い子供たちが増えていますが、そのほとんどの子どもたちに口呼吸の状態が認められます。
口呼吸をすると、舌の位置が下がり、上あごを押すことが無くなるため顎の成長が少なくなり、歯ならびを悪化させます。
さらに舌の落ち着くスペースが不足し咽頭部を塞ぐため、睡眠時無呼吸症のリスクを高めるのです。
このような病気などで酸素の量が減ると、脳卒中や心筋梗塞などの病気のリスクが何倍にも高まるのです。

口を健康に成長発達させる歯科医療としての支援もまた、ピンピンコロリを目指すための重要なことなのです。

豊かな生活は口の健康から ~歯を守ることは病気を防ぐこと~

糖尿病と口の病気

糖尿病に罹患している方では歯周病が重篤化する傾向から、歯周病が糖尿病の影響で悪化するものと考えられた時代がありました。
しかし糖尿病の病態が明らかになるにつれ、歯周病が糖尿病と深く関わっているだけでなく、歯周病が糖尿病を引き起こすことがわかってきました。
つまり歯周病と糖尿病には双方向性の関係があるのです。

歯周病に罹患した炎症歯肉内では大量のTNF-αを含む炎症性サイトカインが産生されており、これが血行を介してインスリンの作用を妨げます。
他方肥満傾向にあるⅡ型糖尿病患者では脂肪細胞から種々のアディポカインが作り出されており、その中には炎症性サイトカインが含まれこれがインスリンの作用を妨げており、この糖尿病発症進展のメカニズムが歯周病と一致するというわけです。

つまり糖尿病を発症進展させるメカニズムが歯周病で発生している状況と一致しているのです。
ですから歯周病の管理は糖尿病を防ぐことになるのです。

脳梗塞、心筋梗塞、動脈硬化と
口の病気

動脈硬化が進んだ血管内部では、アテロームと呼ばれる瘤が発生し、血管を詰まらせて脳梗塞や心筋梗塞を発症させています。
このアテロームを精査すると、その内部には血液中に侵入した歯周病関連物質の存在が確認されました。
歯周病の発症部分では、24時間365日続けて外部からの侵入者に対する免疫応答が繰り広げられ、ここから歯周病原性菌が侵入します。

また、その場で産生された細菌の内毒素や炎症性サイトカインらが一緒に血流を介してアテロームへと運ばれるのです。
これがアテローム内部に歯周病関連物質が存在する仕組みなのです。

ですから歯周病の排除は血管の病気による命の危険から、身体を守ることに繋がるのです。

睡眠時無呼吸症と口の関係

口の周囲(舌・口唇・頬)の使い方の間違いを原因として顎の成長が少なくなると舌が後方に押しやられ睡眠時に気道を塞いでしまいます。
これが睡眠時無呼吸症です。
この病気が発症すると脳・心血管疾患や昼間の事故の発生確率が数倍にも跳ね上がり、死亡リスクが健常者に対して極めて高くなります。

元来口は消化器ですが咽頭部分を呼吸器と供用しているため、臓器としての口の形態と機能が正しくなければ、呼吸動作にも影響してしまうのです。
致命的な失敗は不正な歯並びや機能を放置することや矯正治療で不用意に歯を間引くことです。

歯科的な健康の確認とその回復方法の選択が命を脅かす問題になってしまうのです。

予防医療から見た口の健康の重要性

歯科医療は医科とは異なり、命とは関係ないという認識は誤りです。
すでに予防医療に取り組む医療者の中では、歯科的な健康が確保されなければ、健康な身体を維持できないというのは常識であり、口腔内の疾患がガン・血管疾患を代表とする慢性疾患の原因の一つであると認識されています。

口の中に生じる炎症性の病気の排除、呼吸器機能を阻害しない適正な口腔の成長発達の支援と機能回復は健康な体作りの基本であり、入り口です。

自分に合った適切なホームドクターを確保され、健康で豊かな人生を手に入れてください。

体をむしばむ、歯周病 ~健康な体は口の健康管理から~

病気が起こるということ

身体の調子が悪くなる、いろんな病気にかかる、これは本来のあるべき体の状態が保たれていないことが原因です。
この本来あるべき体の状態から外れてしまうには大きく2つの状況が関係します。
一つには本来体の中には存在しない物が体に侵入するいわゆる「感染」です。
そしてもう一つは、健康な体を維持する仕組みが壊れる、「栄養失調」です。

感染は、体の中に細菌やウイルスが侵入することから引き起こされますが、その入り口となるのが感染源であり、慢性的に人が持っているこの感染源には3つの個所があります。
それは、上咽頭(鼻とのどの移行部分)、根尖病巣(歯の根の先端部の炎症部分)、そして歯周病です。
これらの場所では慢性的に炎症が発生しており、24時間休むことなく体がそこにいる細菌や細菌が作り出す毒素などと闘っています。
その一部は血管を通じて体内に入り込み病気を引き起こします。

栄養失調は、カロリー不足ではなく必要な栄養素の不足の状態を意味します。
腸内からの栄養吸収が悪くなったり、また体内のビタミンやミネラルの不足が原因です。
現代人では、食生活に偏りがあることや、食品自体(特に野菜)が含む栄養素の量が激減しているため、食べているようでも栄養素が不足する状況が発生しています。
このことにより分子レベルでの体の機能不全が発生し、その状態が長期化することで病気へと移行してしまうのです。

歯周病がもたらす全身の病気

近年病気の実態が詳しく解明されるようになり、歯周病が感染源として様々な全身の病気に関わっていることがわかってきています。
歯周病が発生している歯ぐきの溝の中では、細菌が作り出す毒素や細菌自体の組織内への侵入に対抗して、免疫システム働き体を守ろうとします。
この免疫システムでは、炎症が起こっているところで炎症性サイトカインが作られます。
たとえばこの炎症性サイトカインが血液により運び出されると、血糖値を下げる働きをするインスリンの作用を妨げるため、血糖値のコントロールがうまくできなくなり糖尿病が悪化するのです。

また、歯周病により侵入した細菌や歯周病関連物質が血流で運ばれ、動脈内のアテローム(粉瘤)内に侵入ることにより、そこが免疫応答の舞台となります。
これによりアテローム状態を増悪化させ、動脈硬化を重症化させるとともに、虚血性心疾患を起こすなどの症状へと進行させてしまいます。
この結果、いわゆるメタボリックドミノが起こってしまうのです。

歯周病の診断と対処

「リンゴをかじると血が出ませんか」と言うフレーズの宣伝は50年ほど前のものですが、歯周病は生活習慣病で大変ゆっくりと進む慢性疾患であるため、ほとんどの方が重症化するまで気づきません。
もっとも簡便な病気の検査方法は歯科医院で歯周ポケットの深さと出血状態を確認することです。
それに伴いレントゲン写真を撮影することも有効です。
歯周病が進行すると歯を支える骨が壊れますから、その様子を確認すれば病状がわかります。
もし問題があれば、お口の衛生状態を改善し、歯周ポケット内部の細菌を取り除くことで中程度までの歯周病は改善できます。
万一進行していた場合でも、外科処置を併用すれば改善が可能な場合もあります。
まずは自分の状態の確認が第一、しっかりとした検査を歯科医院で受診されることがあなたの体を守ることに繋がります。

 

体の不調は、口の中の病気から ~歯周病と糖尿病~

日本人の糖尿病

糖尿病とは、食事により摂取したものから分解された糖分が適切に体に吸収されず血液中に溜まってしまう状態が続く病気です。
この状態が続くことで、心臓病、腎臓病、脳卒中、失明などの合併症が引き起こされますので、決して見過ごすことのできない病気と言えるでしょう。
世界人口の5%が糖尿病患者といわれていますが、日本では平成19年の国民健康・栄養調査から約2200万人の方が糖尿病であるという報告があり、日本においても深刻な病気の一つとなっています。

さて糖尿病の患者さんでは歯周病の悪化が認められることから、かなり以前から歯周病も糖尿病の合併症であると認識されていました。
特に糖尿病の方においては歯周病患者さんの割合が多く、またその症状がより重症化しており、糖尿病があると歯周病が進行するリスクが高いと言えるのです。

なお近年、糖尿病の合併症としての歯周病ではなく、歯周病が糖尿病を引き起こすという新たな状況も確認され始めてきました。

歯周病が糖尿病を引き起こす

歯周病の患者さんでは、糖尿病を発症するリスクが高く、また歯周病がある状態を放置しておくと糖尿病の治療において行う血糖値のコントロールがうまくいかないという報告です。

アメリカ国民健康栄養調査(NHANES)を用いた研究では、歯周病患者における糖尿病有病率は、歯周病の無い人と比較して約2倍もあることが示されています。
ドイツで15年にわたって行われた追跡調査では、歯周病になっているが糖尿病にはなっていない患者群が、歯周病にも糖尿病にもなっていない患者群と比較して、5年経
過後でHbA1cの数値が悪化傾向にあることが見つかりました。

糖尿病患者の95%と言われるⅡ型糖尿病患者に限っては、歯周病における基本治療である歯肉縁上・縁下の歯石除去などの手術を伴わない歯周病治療を行った場合で
も、血糖値のコントロールに対し治療前後のHbA1cの加重平均差が-0.4%と統計学的にみても有意に変化があることが見つかっています。
これは歯周病によって腫れた歯肉から容易に血管内に侵入した細菌が血管内で死滅した後に、その死骸に含まれるエンドトキシンという内毒素が血糖値に影響を及ぼすことによります。血液中の内毒素は脂肪細胞や肝臓からのTNF-αの産生を強力に推し進めますが、これには血液中の糖分の取り込みを抑える働きもあるため、血糖値を下げるインスリンホルモンの働きを邪魔してしまうことによるのです。

体の一部としての口の管理

多くの方は歯医者を歯の修理屋さんとしてとらえ、口と体は別物のように考えています。
医療教育の現場でも医学部の中に歯科があるのではなく、歯学部が別に分かれて存在します。このため体の病気と口の中のトラブルは別に考えてしまいがちです。
しかし、口の中の問題が体全体に影響していることを考えると、健康な体を保つためには適切なお口の健康管理が不可欠と言えます。

糖尿病がうまくコントロールできない方は、一度お口の状態をチェックしてもらうことが良いでしょう。

生涯入れ歯にならないために ~歯を失う4つの病気を正しく理解しよう~

歯は悪くならない???

歯は正しく管理すれば悪くなることはありません。それどころか生涯にわたり入れ歯になることはなく、使い続けることができます。
そのためには歯を失わないことが大切であり、歯を失うに至らしめる病気が発生しなければよいのです。

この歯を失うに至らしめる病気は4つしかありません。
ですから、この4つの病気を正しく理解し、しっかりと管理を行うことが大切なのです。

病気① むし歯
歯自体が壊れていく病気を「むし歯」と呼びます。これはお口の中に棲みついている細菌が原因です。この細菌は口の中に入った糖分を原料として乳酸という酸を作ります。この酸が歯を溶かしていく病気の事です。歯のかみ合わせの面の溝や歯と歯の間部分から発生する事が多い病気です。
勝手に治ることはありません。
このむし歯から歯を守る方策は、細菌の量を問題が発生しない量にまで少なくすか、あるいは原料となる糖分の供給を減らすことです。
具体的には、歯磨きをしっかりと行うことと甘い物の食べ方に注意をすることとなります。これ以外では歯自体のむし歯に対する抵抗力を高めるために、フッ素を積極的に応用する方法も有ります。
あなたに合った予防の方法は歯科医院で指導してもらうことができます。

病気② 歯周病
歯を支える歯ぐきと骨が壊れる病気を「歯周病」と呼びます。口の中に棲みついている細菌が原因ですが、むし歯の原因菌とは異なります。
この細菌は歯と歯ぐきの境目の歯ぐきの溝の中に棲みつき、慢性的に炎症を起こさせ、この炎症により歯ぐきと骨が壊れます。
むし歯同様に勝手に治ることはなく、この細菌を除去することが病気の予防の基本となります。歯ぐきの溝の深さが3㎜程度までならば、自分自身の管理によりこの細菌を確実に除去することが可能ですが、4㎜を超える歯ぐきの溝の深さがある時は、専門家の手助けが必要となります。

病気③ 良くない治療
むし歯や歯周病に侵された所は自然に治ることがないため、何らかの治療により問題解決を行います。
しかしこの治療が正しく行われていない場合、その治療が原因となり新たな虫歯や歯周病を引き起こしたり、本来使える歯の寿命を短くしたりします。これが「良くない治療で、歯を失う病気の一つと考えることができます。
具体的には、適合の精度が低い治療物や不完全な歯の根の治療などです。治療における重要なポイントは、精度が高く、口全体としてバランス良く治療がなされていることです。
このためには、治療に用いる材料に良い材質を選ぶこと、そして治療後には処置状態の確認をすることが効果的です。

病気④ かみ合わせ
上下の歯の接触の仕方が悪く、歯に無理な力が加わって歯が壊れるのが「かみ合わせ」の病気です。
口という臓器はあごの関節、あごを動かす筋肉、そして上下の歯によって構成される臓器です。この臓器は非常に敏感で30ミクロン(1㎜の1000分の30)の厚みでも敏感に感じる事が出来ます。
このため正しい位置で上下の歯が接触しない場合や、円滑な下あごの動きを妨げるようなすり合わせの状態が歯のかみ合わせ面にあると、歯に無理な力が加わり、歯が欠けたり、グラグラになったり、肩こりや顎関節の痛みなどを引き起こしたりします。
歯科医師が適切なかみ合わせの調整を行うことによりこの病気から歯を守ることができます。

病気を正しく確認すること

歯を失わないためには、これら4つの病気が発生していないかどうかを正しく確認することが不可欠です。
ですから治療に先駆け精密な検査を行い、この様子を見極め、効率的・効果的に対処してもらう事が必要となるのです。
自分のお口の様子を正しく確認されたい方にはデンタルドックが有効です。