よく噛める入れ歯と咬合理論
入れ歯でもよく噛める方とうまく噛めない方とがおられます。
この違いはどこにあるのでしょう。
入れ歯づくりでは、精密度、設計の仕方、支えとなる歯の状態、あごの骨の形、筋肉の状態など多くの要素に配慮が必要です。
その中でも特に重要なことは、どのような咬合(かみ合わせ)に仕上げるのかということです。
噛むという動作は上下の歯がぶつかり合うことにより行われますが、そのぶつかり合うときの状態を咬合といいます。
咬合は、どの高さどの位置で上下の歯のどの部分が接触し、また咀嚼という複雑なあごの動きの中で為害性のある接触が起こらないように考えられています。
それと同時に噛む動作の目的である食材をかみ砕くという作業が効率よく行われなくてはなりません。
これらのことをうまく実現するために先人たちは知恵を絞り、様々な咬合のさせ方をそれぞれの咬合理論として作り上げました。
いろいろな咬合理論がありますが、その理論で実践されなければならない共通の課題は、「噛むという動作をしたときに入れ歯が動かない」ということです。
入れ歯は歯茎の上に乗った状態で使われるため、噛む動作で力が加わるときに垂直方向に力が加わることが大切であり、もし横方向への力が発生すると、入れ歯自体が揺れて動き、歯茎と入れ歯が接触する部分でこすれてしまいます。
この状態が歯茎に傷を作り痛くて噛めない状態を作ってしまうからです。
さらに部分入れ歯では、支えとなる歯を揺さぶることとなり、この支えの歯を壊してしまうのです。
総入れ歯での咬合理論
歯が全くなくなった状態の口の中に装着される入れ歯を総入れ歯と呼びます。
この入れ歯の特徴は、入れ歯における歯茎部分(床と呼ばれる)にすべての歯が並んでおり、すべての歯がつながっている点にあります。
このため左右どちらかで噛む動作をしたときに加わる力は反対側にも伝わります。
このことが入れ歯の安定性に大きくかかわるのです。
食事をするときには片側で噛む動作をしますから、片側での安定性が求められます。
しかし入れ歯自体を左右にこすり合わせるときには左右の歯が全体にスムーズに接触することが必要です。
このために考案された咬合理論は両側性平衡咬合です。
この咬合様式を実現できると上下の入れ歯をかみ合わせた状態で左右に下あごを動かしたとしても、入れ歯自体が揺れて動くことはありません。
部分入れ歯での咬合理論
部分的に失われた歯を補う入れ歯を部分入れ歯と呼びます。
この入れ歯では噛む力を支える方法が自分の歯と入れ歯部分の歯茎という支える力が異なる様式となるため咬合理論は複雑になります。
残っている歯の状態により作り上げる咬合は異なりますが、上下の前歯部分で自分の歯が残っており、あごの動きを自分の歯で道案内できる(ガイドと呼ばれる)場合には入れ歯部分で垂直方向の力のみが歯に加わるような咬合を入れ歯に設計します。
この道案内が自分の歯でできない場合には、残っている自分の歯も入れ歯の歯と同じであると考え、総入れ歯の両側性平衡咬合を与えなければなりません。
このため歯がない入れ歯部分だけでなく、自分の歯を含めたすべての歯を同時に設計し治療しなくてはならないのです。
歯医者さんを選ぶ
咬合には様々な理論があり、歯科医師ごとにどの理論を採用しているかは異なります。
ですから歯科医師に治療を依頼する場合には、その歯科医師がどのような咬合理論で入れ歯を作ろうとしているかを確認する必要があります。
しかし専門性の高いこの内容は患者さんには理解しにくい事柄でもあります。
もし現在入れ歯の不具合を感じ作り変えを考えておられるなら、治療に先駆けて
①いま困っている状況を的確に伝えること
②その問題の改善方法としてどのような手段を採用しようとしているか確認すること
これらのことを行いましょう。
あなたの入れ歯の不具合は、入れ歯が動くことにより発生しています。
ですから入れ歯づくりを依頼してよい歯科医師とは、あなたの問題を的確に指摘し、新たな入れ歯が動かないようにする手立てを説明してくださる歯科医師であることが大切です。