歯科医療が支える健康寿命 ~予防歯科最前線 プロバイオティクスを用いたバクテリアセラピー~

予防歯科の流れ

歯に発生する病気は、微生物が原因で発生するむし歯や歯周病、不適切な歯科治療、そして無理な力が加わって歯が壊れる咬合病があります。
そこでむし歯や歯周病に対しては、これらの病気の原因である微生物を取り除くことにその基本がおかれてきました。

スウェーデンから提唱された治療方法では、徹底した歯磨きの実践と専門家によるクリーニングを組み合わせて微生物を除去することで歯周病を発症させず、さらにむし歯に対してはフッ素を活用して対処してきました。
この流れを受け多くの歯科医院では、予防歯科と銘打って歯科衛生士による定期的なクリーニングの支援が行われています。

しかしながら微生物を除去するという方法には限界があります。
いくら微生物を取り除いてもゼロになることはなく、一定の時間によりその量は元に戻ります。
そこで考えられた新しい予防歯科の手法は、この微生物を取り除くのではなく、うまく活用することで口の中の健康を保つという考えかたであり、これがプロバイオティクスを用いたバクテリアセラピーです。

微生物と共存する

プロバイオティクスとは身体に有益な影響を与える微生物を含む食品や医薬品のことであり、代表的なものとしては腸内フローラを健康にするという観点から注目された善玉菌(乳酸菌やビフィズス菌など)というとご理解いただけるでしょう。

人がその生を続けて健康に過ごすために不可欠な要素は、体中の細胞に対し活動の源となるエネルギーを供給することであり、口から始まる消化器官は一手にその役割を担っています。
その際共存する微生物の働きは重要で、その微生物の構成次第では円滑な栄養摂取の機能が働かず、体調不良や病気を発症してしまいます。

ですからプロバイオティクスを摂取して健康な状態を確保しようというわけです。
微生物との共存が最初に注目された腸内では、栄養の消化吸収にこれらが深く関わっていたためですが、同じ消化器官の口では少し考え方が異なります。
口が栄養摂取のための臓器という観点からは、歯を守り噛む機能を維持すること、また感染を防ぐという観点からは、有害微生物が身体の中へ入り込まないようにその量を減らすことが重要です。
これらの点から口内フローラをどのように構成するべきなのかについて考え、
プロバイオティクスを活用するわけです。

プロバイオティクスとしてのロイテリ菌

ラクトバチルス・ロイテリ菌は、WHO/FAOが要求している(WHO/FAO 2002)人間の健康に有益な影響を与える「プロバイオティクス」のすべての条件をもっている乳酸菌です。
その安全性や効果については多くの研究結果が論文として発表されています。
この菌は口の中においても、歯周病菌や虫歯菌の増殖を抑制する効果、重度から中程度の歯肉炎を緩和、さらには口臭の抑制効果や病原菌の温床となる歯垢の形成も抑制する効果を持っています。

ロイテリ菌を使った新しい予防歯科

病原菌を有益な効果を発揮する微生物で駆逐する治療法がバクテリアセラピーです。ヒト本来の微生物と共存するという状況を壊すことなく、病原菌の比率を下げ、悪影響を排除するという考え方です。

このバクテリアセラピーを従来の除菌とバランスよく併用することで、口の中に発症するむし歯や歯周病といった微生物による病気を予防することができます。

全く新しい考え方による予防方法ですが、大変有効な手法です。

ますます高齢化が進み、健康に生きるということが生活の質を左右します。
その反面若いときに何気なくできたことが徐々にできなくなるのもまた自然な流れであり、歯磨きによる微生物の除去にも限界がおとずれます。
旧来の微生物を除去する一辺倒の予防では、歯磨きができなくなると発病してしまいます。
ですから『病気を引き起こす原因菌を健康に寄与する良い菌により減らす』という取り組みが、これからの新しい予防の流れとなっていくでしょう。

歯科医療が支える健康寿命 ~予防歯科最前線 3DSによる病原菌管理~

歯を失う病気

誰でも歯を失いたくはありません。
歯を失うと今まで何気なく食べていたものが食べられなくなります。
また人前で笑うことも躊躇しなくてはならず思わず口元を隠すしぐさが入ってしまいます。

それどころか、歯を失う病気の影響で命を脅かすこともわかってきました。
これらの病気とは縁がないことが望ましいですね。

さて、歯を失うに至らしめる病気は4種類ありますが、そのうちむし歯と歯周病は口の中にすみつく細菌が原因で発生します。
口の中には500~700種類ほどの細菌がすみついているといわれますが、そのうち虫歯や歯周病を引き起こす原因菌はその一部だけです。

これらを含む細菌は細菌叢(口内フローラ)という社会を構成し、その中ではそれぞれの菌が一定の割合ですみついているのです。

歯周病とむし歯の原因菌

むし歯や歯周病などの病気を引き起こす原因菌は人体にとって有害であるため悪玉菌と呼ばれますが、これに対し人体には悪影響をもたらさない菌や有益な影響を及ぼす菌を善玉菌と呼んでいます。
実は病気の発症にはこれら悪玉菌と善玉菌の比率が問題であることがわかってきました。

例として2人の違ったタイプの細菌叢を持つ方を比較してみましょう。

Aさんは悪玉菌と善玉菌の比率が50:50ですがBさんは10:90だとします。
Aさんは毎日一生懸命歯磨きをするので菌の総量は100、Bさんは歯磨きが苦手で菌の総量はAさんの3倍の300でした。
しかし病原性を持つ悪玉菌の量は、Aさんが50でBさんが30となり、歯磨きができていないBさんのほうが病気を発症しにくいということになるのです。

最新の予防歯科手法

従来の歯科医療では、菌の量を減らすことが予防の基本とされてきました。

歯科医院では歯磨きの方法からトレーニングを行い、専門的なクリーニングも行って菌の量を問題が出にくいレベルまで減らしてきました。
このことは確かに一定の成果を出していますが、それでも病状が進行する人が残りました。つまり口の中の細菌叢において悪玉菌の比率が高かったのです。

このような菌の比率は一度確定するとなかなか変化しにくいとされてきましたが、一定の除菌介入直後に善玉菌を増やすことでこの細菌叢の比率が変化するという報告がなされ、この考え方を取り込む治療法が医科・歯科の領域で導入されたのです。

人の身体は細菌との共存関係により維持されています。
ですから歯磨きなどの手法により細菌の量を減らすには限界があり、悪玉菌ではなく善玉菌との共存関係を構築していくように配慮することが自然であるともいえるでしょう。

3DSによる歯科細菌性疾患の予防法

3DSとは口の中の悪玉菌によるリスクを判定したうえで、一定の除菌処置を行う手法です。
その方のお口の菌の状態に応じた薬剤を作用させるため、専用トレーを作成し、まずは悪玉菌の量を減らします。
それと同時に善玉菌の菌株をタブレットなどによって補給し、善玉菌と悪玉菌の構成比率を変化させ、むし歯や
病の発症リスク自体を軽減する方法です。

当然適切な治療がなされていることが前提ではありますが、むし歯や歯周病の改善がなかなか進まない方、しっかりとお口の健康を維持されたい方は一度試してみるとよいでしょう。

歯科医療が支える健康寿命 ~命を脅かす歯周病~

生きるということ

どなたにも公平に命の終わりは訪れます。生き物である限りこれは避けることができない現実でしょう。
しかしその時までをどのように過ごすかは自分の意志で変えることができます。

健康でやりたい事が自分の力でやりきれる人生を謳歌するためには、健康であることが基本です。
その健康は、体に感染がなく、適切に栄養が摂取でき、十分な酸素を取り込める状態により確保され、これらはすべて口の健康と深い関係を持っています。
ですから健康に生きるということは、口の中に問題がない状態によって手に入れることができるのです。

歯周病の先にある病気

口の健康管理を行う上で注目されるのは歯周病です。
歯周病は単純に歯を失うという病気ではなく、その病気が発生している個所において慢性の炎症を起こしていること、さらにはそこが身体の中への感染ルートになっていることが問題です。
このことによりほかの病気を引き起こす原因となっています。

歯周病の病変部では炎症性サイトカインが産生され体中に広がるだけでなく、同時に歯周病菌などが血管内部に侵襲します。
これらが血管の細胞を傷つけ炎症を起こし、さらにそこにはコレステロールなどが付着してアテロームと呼ばれるこぶを形成します。
このようにして動脈硬化が発症し、血管が詰まると脳梗塞や心筋梗塞を引き起こしてしまうのです。
また炎症性サイトカインはインスリンの効果を抑制するため糖尿病が発症したり悪化したりします。
ほかにもリウマチや骨粗鬆症、妊婦さんでは早産の原因にもなることがわかっています。
ですから歯周病だけを考えるのではなくその先で発症する病気のことを考え、それらの病気からあなたの身体を守るという観点で歯周病と取り組まなくてはなりません。

なぜ歯周病が改善しないのか

日本人の90%もの人が歯周病にかかっているという報告があり、その症状が重篤化したことで悩んでいる方は大勢おられます。
その多くの方は歯周病がどのような病気であるのかを知りません。
また歯周病に罹患していることに気づいていない方もおられます。
これは歯周病がサイレントディジーズと呼ばれ気づかないうちに徐々に進んでしまう病気だからです。
歯周病を克服するためには、正しい知識を持ち正確に自分の状況を評価することが不可欠です。
そのためにはしっかりと歯周病と向き合ってくれる歯科医師を主治医に持ち、精密な検査を行って病状を正確に把握し、着実に治療を進めることが必要です。
また治療以外に生活習慣を見直すことも必要で、口の中の衛生管理や食生活の改善の支援も主治医から受けなくてはなりません。
さらに最新の予防方法では、口の中の歯周病菌の比率を減らす細菌の入れ替えを進める方法(3DS)も取り入れられるようになり有効な対処方法でもあります。
歯周病を放置した時に失うのは歯だけでなく、口が健康であることにより支えられている健康な身体、そしてその体がもたらす豊かな生活さえも失うということを理解しましょう。
そしてあなたの生活を守るために、適切な主治医を持ち、最善の治療を受診することが必要です。

 

歯科医療変革への思い ~良質の歯科医療訴求を目指して~

歯科医療現場の現状

日本では医療サービスを健康保険制度により受診することができます。
これは憲法第25条、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」という国民の生存権と国の社会的使命の規定により整備された制度です。日本は、この制度により誰でも医療サービスを受けることができる世界でも恵まれた国といえます。

他方、この制度は医療の質を低下させています。
最低限度の生活を営むために了解された医療サービスの内容は、病気により壊れた機能を最低限度の範囲で回復する内容しか有していません。
多くの国民は、健康保険制度で提供される医療が医療の標準のように解釈していますが、実際には学問としての歯科医療が提供できる医療内容の一部しか網羅していないのです。

また、この医療制度はその報酬を大変低く設定しています。
このため歯科医師は医院の経営のため、多くの患者さんを短時間で効率的に処置するシステムを導入しました。
短いアポイント時間で多くの患者さんを診察する歯科医師は、複雑な治療を行えず、丁寧な処置がしにくくなっています。

さらにこの状況は患者さんが歯科医師と治療や健康管理などの方法についてじっくりと相談する時間も確保しにくくしてしまいました。
取り換えの無い歯に治療をするにあたり十分な相談をできず、不本意な治療を受け入れなければならない患者さんをつくりだしてしまったのです。

ゴールデンルール

私が歯科医師になった当初、師匠の歯科医師からゴールデンルール(黄金律)を守って患者と向き合うことを教えられました。

自分がしてほしいと思うことを同じようにほかの人に行いなさい

という聖書の中に述べられている教えです。

歯科医療に精通しておりその良否が正しく判断できる歯科医師がこの教えを患者さんに適応するならば、おのずと良質の歯科医療が提供されることになります。

私が患者であるならば、勝手に歯を削られることはなく、どのような治療方法が適切なのかを教えてもらって判断し、納得して治療を受けたいと考えます。
さらにその治療は長く安定していることを希望し、その治療により快適で豊かな生活を行い、健康をしっかりと支えることができる口の健康を手に入れたいと思います。
そのためにも十分な時間をとって歯科医師と相談を行い、納得のできる治療を受けたいと望みます。

良質医療の要件

このように考えると良質の医療がどのような要件を備えていなければならないかが見えてきます。
治療技術が高く、性能の良い修復物が提供されることは当然のこととしたうえで、
これからの医療現場には以下のような要件が求められるでしょう。

このような医療体制が普及することで日本の医療レベルが向上し、医療変革がなされていくことを期待いたします。

入れ歯のための咬合理論 ~動かない入れ歯づくりをしよう~

よく噛める入れ歯と咬合理論

入れ歯でもよく噛める方とうまく噛めない方とがおられます。

この違いはどこにあるのでしょう。

入れ歯づくりでは、精密度、設計の仕方、支えとなる歯の状態、あごの骨の形、筋肉の状態など多くの要素に配慮が必要です。
その中でも特に重要なことは、どのような咬合(かみ合わせ)に仕上げるのかということです。

噛むという動作は上下の歯がぶつかり合うことにより行われますが、そのぶつかり合うときの状態を咬合といいます。
咬合は、どの高さどの位置で上下の歯のどの部分が接触し、また咀嚼という複雑なあごの動きの中で為害性のある接触が起こらないように考えられています。
それと同時に噛む動作の目的である食材をかみ砕くという作業が効率よく行われなくてはなりません。
これらのことをうまく実現するために先人たちは知恵を絞り、様々な咬合のさせ方をそれぞれの咬合理論として作り上げました。

いろいろな咬合理論がありますが、その理論で実践されなければならない共通の課題は、「噛むという動作をしたときに入れ歯が動かない」ということです。

入れ歯は歯茎の上に乗った状態で使われるため、噛む動作で力が加わるときに垂直方向に力が加わることが大切であり、もし横方向への力が発生すると、入れ歯自体が揺れて動き、歯茎と入れ歯が接触する部分でこすれてしまいます。
この状態が歯茎に傷を作り痛くて噛めない状態を作ってしまうからです。
さらに部分入れ歯では、支えとなる歯を揺さぶることとなり、この支えの歯を壊してしまうのです。

総入れ歯での咬合理論

歯が全くなくなった状態の口の中に装着される入れ歯を総入れ歯と呼びます。
この入れ歯の特徴は、入れ歯における歯茎部分(床と呼ばれる)にすべての歯が並んでおり、すべての歯がつながっている点にあります。
このため左右どちらかで噛む動作をしたときに加わる力は反対側にも伝わります。
このことが入れ歯の安定性に大きくかかわるのです。
食事をするときには片側で噛む動作をしますから、片側での安定性が求められます。
しかし入れ歯自体を左右にこすり合わせるときには左右の歯が全体にスムーズに接触することが必要です。
このために考案された咬合理論は両側性平衡咬合です。
この咬合様式を実現できると上下の入れ歯をかみ合わせた状態で左右に下あごを動かしたとしても、入れ歯自体が揺れて動くことはありません。

部分入れ歯での咬合理論

部分的に失われた歯を補う入れ歯を部分入れ歯と呼びます。

この入れ歯では噛む力を支える方法が自分の歯と入れ歯部分の歯茎という支える力が異なる様式となるため咬合理論は複雑になります。
残っている歯の状態により作り上げる咬合は異なりますが、上下の前歯部分で自分の歯が残っており、あごの動きを自分の歯で道案内できる(ガイドと呼ばれる)場合には入れ歯部分で垂直方向の力のみが歯に加わるような咬合を入れ歯に設計します。
この道案内が自分の歯でできない場合には、残っている自分の歯も入れ歯の歯と同じであると考え、総入れ歯の両側性平衡咬合を与えなければなりません。
このため歯がない入れ歯部分だけでなく、自分の歯を含めたすべての歯を同時に設計し治療しなくてはならないのです。

歯医者さんを選ぶ

咬合には様々な理論があり、歯科医師ごとにどの理論を採用しているかは異なります。
ですから歯科医師に治療を依頼する場合には、その歯科医師がどのような咬合理論で入れ歯を作ろうとしているかを確認する必要があります。
しかし専門性の高いこの内容は患者さんには理解しにくい事柄でもあります。

もし現在入れ歯の不具合を感じ作り変えを考えておられるなら、治療に先駆けて

いま困っている状況を的確に伝えること

その問題の改善方法としてどのような手段を採用しようとしているか確認すること

これらのことを行いましょう。

あなたの入れ歯の不具合は、入れ歯が動くことにより発生しています。
ですから入れ歯づくりを依頼してよい歯科医師とは、あなたの問題を的確に指摘し、新たな入れ歯が動かないようにする手立てを説明してくださる歯科医師であることが大切です。

噛む力から歯を守れ!~過大な力で歯が壊れるプロセス~

噛む力に負けると歯が壊れる

いつまでも使い続けたい自分の歯ですが、歯が壊れて使えなくなる時には必ず原因があります。
多くの場合虫歯や歯周病が原因といわれてきましたが、それらの病気の背景では力負けして歯が壊れるという状況が存在しています。
食事のときだけでなく、歯ぎしりや食いしばりといった行為でも歯には過度な力が加わり、時にその力は100kg以上にもなります。
この力から歯を守ることが大切なので、無理な力が加わって歯が壊れていく過程の中で早期にその状態を見つけることが重要です。
過度な力で歯が壊れる過程を知り、早めに無理な力が加わらないように対処することが大切です。

◆マイクロクラック

歯の表面はエナメル質という固い材質でできていますが、ガラスのようにもろい面
もあります。
大きな力が加わるとこのエナメル質にはひびが入ります。
これがマイクロクラックと呼ばれる状態です。虫歯はないのに歯が痛いというときにはこのひびが入っていることを疑います。
通常は再石灰化により修復されますが、過度な力が排除されなければ次の段階へと破壊が進みます。

マイクロクラック

◆知覚過敏

マイクロクラックがエナメル質を超えて象牙質にまで及ぶと歯に凍みを感じるように
なります。
これが知覚過敏の状態です。
多くの場合、歯と歯茎の境目あたりの薄いエナメル質に発生します。
樹脂の材料などで修復する処置がなされますが同時に歯に加わる無理な力を取り除くことが重要です。

知覚過敏

◆歯髄炎

クラックが歯の神経(歯髄)にまで達すると、大きな痛みを伴います。
これが歯髄炎です。
冷たいもので凍みる場合は軽症ですが、熱いもので疼くようになると歯の根の
治療が必要となります。

歯髄炎

◆アブフラクション

歯髄炎には至らないのですが歯と歯茎の境目に大きな欠けが発生する状態をアブフラクションといいます。
欠けが大きくなると歯が折れてしまいますので、修復と同時に歯への負担を軽減する処置が必要となります。

アブフラクション

◆歯の摩耗

歯と歯茎の境目ではなく、かみ合わせの面が過度にすり減る状態が摩耗です。
表面のエナメル質が失われると急速にこの摩耗は進行します。
摩耗したかみ合わせの面は相手の歯と接触する面積が増えるため、さらに摩耗が進みやすくなります。
この状態になると歯に冠を入れてエナメル質を人工的に回復させる処置となります。

歯の摩耗

 

 

 

 

 

◆歯の破折

さらに大きな力で摩耗が進むと歯が割れてしまいます。
歯冠部の小さな欠けの場合は人工的なエナメル質の再生で回復できますが、破折が   歯の根にまで及んだ時にはその歯を使うことが困難となり、歯を抜かなくてはならなくなります。
歯磨きだけでは歯を守ることはできません。
必ず歯に加わる力(咬合)を正しく整えてもらいましょう

歯の破折

 

血管を守って、老化を防ごう! ~血管病と歯周病~

歯周病は慢性炎症

歯周病が歯ぐきの病気だということはどなたでもご存じの事柄です。

しかし、歯周病が炎症を主体とする病気であるという認識は少ないのが現状です。

歯周病は歯ぐきの溝の中の歯と接する歯ぐきの部分の炎症による病気です。
歯ぐきの溝の深さが4mm程度の方であれば、その炎症を起こしている歯ぐきの総面積は手のひらぐらいの大きさ約75㎠ほどもあり、その部分が腫れているだけでなく出血や膿を出し、さらには細菌が継続的に感染する温床となる病気です。
もし身体のどこかに手のひらほどの大きさでこのような状況を起こしているところがあるとすると、放置する人はいないでしょう。
しかし歯周病はそのような炎症を起こしているにも関わらず、放置されている場所であり、慢性炎症として体に影響を与え続ける病巣なのです。

慢性炎症が病気を引き起こす

慢性的な炎症が病気を発症させることはよく知られています。
肝炎ウイルスで発症した肝炎は肝硬変から肝がんへと移行しますし、ピロリ菌で発症した胃炎は胃がんになり、HPV感染は子宮頸がんを発症させるなど、慢性の炎症は身体を蝕みます。
同様に歯周病により細菌が血管内へと侵入することにより、動脈硬化を引き起こしひいては脳・心筋梗塞を引き起こします。
また炎症により作り出された炎症性サイトカインが体内に持続的に供給されると糖尿病を発症させます。

炎症は血管を傷め、老いを早める

医学博士のウイリアム・オスラー氏は「人は血管とともに老いる」という言葉を残しておられますが、加齢は動脈硬化の主たる危険因子の一つです。
つまり加齢により血管が本来持っている様々な機能が次第に低下するわけで、特に血管の弾性が低下することが問題となります。
加齢による変化は歯ぐきの血管でも同様に発生し、この結果歯周病に対する抵抗力は低下します。
すると炎症はさらに重篤化・慢性化していくこととなり、歯周病菌やその細菌が作り出す毒素、炎症性物質が血管内に入り込むこととなるのです。
血管内に侵入した細菌は、血管内壁にできたアテローム内に侵入し増殖して血管をふさいだり、それが剥がれて血栓となり血管を詰まらせることで梗塞を引き起こすのです。

歯周病が関係する全身の病気

歯周病に関係するといわれる病気は血管病だけではありません。
糖尿病、メタボリックシンドローム、骨粗しょう症、誤嚥性肺炎などの呼吸器系疾患、早産や低体重児出産の発症など様々です。
つまり、身体の一部に継続的な炎症箇所があること自体が問題であり、この歯ぐきという箇所が身体に対しての感染の入り口になっているということを理解しなければなりません。
そしてこの炎症を取り除くという意識が重要となります。

歯周病の治し方

歯周病への取り組みは至ってシンプルであり、歯周病の原因となる細菌の量を問題がないレベルまで減らすことに尽きるといえます。
しかし複雑な形をしている口の中の細菌を取り除くことは困難な作業でもあります。
きれいに整った歯並びで病気が発症していない状況から細菌除去を始めるとその作業は簡単ですが、歯列が乱れていたり、不正な形や不適合な状態の修復物が入っていると掃除ができません。
また、いったん歯周病が発症し深い歯周ポケットができてしまうとその部分を自力で清掃することもできません。
なんら症状を感じていなかったとしても、できるだけ早期に精密な検査を受け、歯周病の状況を正しく見極めておきましょう。

もし歯周病が見つかったならば、まずは細菌の少ない口の中の状況を作りあげ、この状況を維持するメンテナンスの体制を整えることが賢明です。

間違いだらけの歯医者選び ~本物の歯科医療を選ぼう~

失った歯を入れる歯医者選びは間違い

多くの患者さんは歯に空いた穴を埋めたり、失った歯を入れたりすることが歯科治療だと考えています。
また歯科医師自身も歯の修理を中心に歯科医療を提供しています。
しかし歯に穴が開いたり、歯を失うというのは手の指を失うのと同じぐらい大きな出来事です。
ですから大切なことはなぜ歯を失うようになってしまったのかというその原因を突き止め、新たな犠牲となり失う歯がなくなるように取り組むことです。

歯科医療は歯を治す技術として進化してきたため、歯医者を歯の修理屋として考える慣習は仕方がないものかもしれません。

しかし健康な口で歯を失うことが無いようにするためには、歯の修理の前にその原因を取り除くことが重要であり、そのように原因療法として取り組む歯科医師を選択することが大切です。

保険治療が標準治療というのは間違い

歯科医学では発生した口の中の問題を改善し、本来の機能を取り戻すことを目的として、様々な方法が考案されてきました。
先人たちが開発したそれらの方法、また最新の歯科医療を有効に選択すれば、口を健康な状態に戻すことが可能です。
しかしながら健康保険制度により提供される歯科医療は、その方法の一部しか認めていません。
これは憲法第25条が掲げる「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という条文に基づき整備された社会保障制度であるためです。

もしあなたが最低限度の生活を維持する程度以上の良質の歯科医療を望むのであれば、保険制度による歯科医療では不足です。

保険治療は決して標準の歯科治療ではないということを知っておかなければなりません。

予防歯科に行けば歯が守れるというのは間違い

健康な歯を守るという目的に準じ、予防歯科を標榜する歯科医院が増えました。
しかしながらこれらのほとんどの歯科医院で提供される予防医療とは、歯科衛生士による口腔衛生指導と定期的な健診です。
口の中で歯を壊してしまう病気には、細菌による虫歯・歯周病と、無理な力により歯が壊れる咬合病とがあります。
ですから歯科衛生士の介入により細菌を取り除くだけでは、力の問題による歯の崩壊から歯を守ることができないのです。

歯を健康に使い続けるために予防的な歯科医院の利用をお考えならば、必ずかみ合わせも含めて、口の中を総合的に管理してくれる歯科医師を選択しなければなりません。

治療方針を歯科医師に任せるのは間違い

旧来の医療の概念はパターナリズムをベースとしており、医療者は患者の利益を鑑みて、医療上の判断は患者にさせることなく、より良い方向へと患者を誘導するというものでした。

しかし現在の医療倫理基盤の世界標準は患者中心へシフトしており、患者自身が自分に合った医療内容を自らの意思で選択することを基本としています。

そのためには医療選択に必要な情報を医療者から提供してもらい、十分な相談を受け、決めるという、患者自身がインフォームドコンセントを行うことが必要です。

ですから歯科医師に治療方法の選択を委ねるという考え方は改め、自分自身で自分の受ける医療を選択するという行動をとることが必要となります。

健康を支える歯科治療の時代

歯科医療は一般医療よりも重要度の低いものとして扱われてきた歴史があります。

しかしながら医学的な知見を病気の治療に使うのではなく、病気にならないという予防医療の取り組みに活用しようとするとき、歯科医療は健康な身体を維持するためにもっとも重要な役割を担うという事を知っておかなければなりません。
感染のルートを遮断し、全身の細胞が必要とする栄養を摂取し、酸素を効率的に確保するためには口が重要な役割を担うからです。

あなたが本当に健康であり続けることを望むのであれば、適切な主治医を見つけ、健康についてしっかりと相談し、二人三脚でしっかりと取り組むことが必要です。

良質の歯科医療があなたの豊かな生活を守ります。

噛める入れ歯で豊かな人生 ~噛める入れ歯と噛めない入れ歯の違い~

噛むことは生きること

野生の動物はいつも食べています。

食べていないときは寝ています。

つまり、食べることが生きることであり、もし食べることができなくなるとそれは死を意味します。

人も動物であり、生きるためには食べなくてはなりません。

60兆個ともいわれる身体を構成する細胞は、働き続け、常に新しい細胞へと取り換えを行い、活動を続けるために、栄養とエネルギーを必要としています。
そのエネルギーを確保するのが消化器官と呼ばれる臓器であり、口から肛門までの間のそれぞれの臓器が役目を果たすことで活躍しています。
消化器官の中での口の役割は栄養素を含んだ食物を取り込み、砕いて消化がしやすい状態にして胃に送ることです。
ですからなんでもしっかり噛めるということが生きるということを支えているのです。

入れ歯になるとうまく噛めない、食べたいものが食べられない、という方がおられます。これでは健康に寿命を全うすることができません。

それではどのような要素が良く噛める入れ歯に必要なのでしょう?

入れ歯の歯並び

失った歯の代わりに入れ歯を入れて噛むとき、良く噛める入れ歯では正しい位置に整った状態で歯が並んでいます。
入れ歯は自分の歯とは異なり、歯ぐきの上に乗った状態で入れ歯の歯同士がつながっています。
このためバランス良く均一に力が加わるような設計になっていることが重要です。
ですから、入れ歯だけでなく残っている自分の歯も含め、すべての歯が整列して並ぶように歯並びを整えることが大切となるのです。

入れ歯の適合

入れ歯に加わる力は歯ぐきが支えます。
歯ぐきの中には骨があり、この骨に均一に力が加わり、特定の個所に噛んだ時の力が集中しないことにより噛むことができます。
ですから精密な歯ぐきの型取りを行い、ピッタリと適合した入れ歯であることが必要です。

支えの歯の管理と留め具の構造

部分入れ歯の場合では、残っている歯に入れ歯を支えさせます。
このためこの支えの歯がしっかりとしていること、そして無理をさせないことが重要です。
入れ歯を作るにあたっては、まずお口の中に残っている歯を健康にすることが必要で、むし歯や歯周病の治療が優先されます。
その後これらの歯に使う入れ歯の留め具では、支えの歯を揺らすような力が加わらないような留め具の設計を選択します。
このことにより今以上に口の中の状態が悪くなるのを防ぎます。

入れ歯の大きさ

入れ歯は筋肉に囲まれて役目を果たします。
内側には「舌」、外側には「頬」「唇」、これらにはすべて様々な筋肉があり、すべての筋肉が連携して動くことで、噛んだり、飲み込んだり、おしゃべりをしたりという動作を円滑に行っています。

ですからこれらの筋肉の動きを妨げない空間に入れ歯は鎮座しなくてはなりません。

しかし筋肉の動きを妨げない空間に適正に収まる入れ歯であったとしても、その空間の中で小さすぎるとまた入れ歯が安定せず動いてしまいます。
つまり周囲の筋肉と調和する、大きすぎず小さすぎないサイズの入れ歯であることがポイントです。

入れ歯づくりに妥協は禁物

人の命を支えるのは噛むという機能です。
この機能が健康な身体を創り、豊かな人生を支えます。
そのためにもしっかりとした入れ歯を誂えなくてはなりません。

主治医としっかりと話し合い、なんでも噛める入れ歯を、とことん追求して作ってもらいましょう。

あなたの歯を壊す咬合病 ~自己診断で咬合病から歯を守ろう~

咬合病とは

咬合病とは咬み合わせの不具合により起こる様々な病的状態の事で、食事のとき以外に強く噛みしめたり歯ぎしりなどをして歯に過剰な負担をかけ歯を壊してしまう病気の総称です。

口の中の状態からとらえたこの病気は、適切な咬み合わせが確保されていない場合に発症する病気であり、これらの問題を改善することで解決が可能です。
しかしながら自律神経の問題など全身の状態が悪いことによっても発症するため対処が複雑になっています。
口の中に発症する虫歯や歯周病は細菌が原因であり、適切な管理を行えばこの病気を防ぎ、歯を守ることができますが、咬合病は自己管理では改善できない問題です。

このため早期に発見し専門医に委ねなくてはなりません。
そこで今回はあなたがこの咬合病の問題に侵されていないかの見分け方をお知らせします。

歯の磨り減り、痛み、歯が割れる

咬合病では上下の歯を強く接触させることにより歯を磨り減らします。

このため歯の表面のエナメル質が薄くなりやがては失われ、エナメル質よりもやわらかい象牙質が露出してしまうことで、歯の磨り減りだけでなく、知覚過敏や咬み合わせたときの痛みを引き起こします。

磨り減りによりエナメル質が薄くなり歯が割れやすくなるのも病状が進行した症状です。

奥歯の磨り減りや前歯が水平に切ったような磨り減り状態になること、また歯の先端部が欠けてギザギザになること、歯と歯ぐきの境目が欠けてしまうことなどがあれば咬合病を疑います。

歯周病が治らない

歯に加わる強い力は絶えず歯を揺らすように作用します。

歯周病では炎症により歯を支える骨が失われますが、歯周病単独の問題であれば適切な処置と細菌を取り除くことで炎症が治まれば歯の揺れは止まります。
しかし歯周病の処置を適切に行ったにもかかわらず歯の揺れが止まらず、歯周病が進行するときは、咬合病が併発していることを疑います。

顎がカクカク鳴る、口が開かない

顎関節で音がしたり、口が開きにくくなる病気を顎関節症と言います。

顎関節症では顎関節内にある関節円板の位置がずれていたり、関節自体に障がいが発生したりしていますが、これは適正な位置で上下の歯が正しく接触していないことによります。
つまり、顎関節症は咬合病の結果として発症するのです。

肩こりや頭痛

咬合病で食いしばりや歯ぎしりを行うと口に関係する筋肉が異常に緊張し痛みを発するようになります。
多くの場合の頭痛は頭がい骨表面の筋肉の痛みで、過緊張により筋肉に疲れが溜まった状態です。
肩こりも同様で適切な位置で咬みあわないと顎の位置が不安定となり、頭を支える肩から首にかけての筋肉に疲労が溜まり、肩こりとなります。

肩こりや頭痛に悩む人は咬合病のチェックを受けましょう。

情緒が不安定

咬み合わせは非常に繊細で、30ミクロン(1ミリの1000分の30)の違いを識別します。

咬み合わせの誤差は咬合病の原因ですが普段は歯には影響が出ないようこの誤差を
顎をずらすことによりカバーし、歯が壊れないように守っています。
しかしストレスや疲れなどの影響でこの防御機能が働かなくなると違和感が増幅することを受けてメンタルの状態も悪くなり情緒不安定になります。
身体は様々なサインで異常を知らせています。

もし心当たりがあるようなら、咬合病が無いか専門医に確認してもらいましょう。